転移性トリプルネガティブ乳がんをあきらめない!抗がん剤、ケトン食、温熱療法、高圧酸素療法による完全寛解

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トリプルネガティブ乳がんは、乳がん全体のおよそ10~15%にみられ、比較的若い女性に多いとされています。他のタイプの乳がんよりも悪性度が高く、転移・再発しやすいのが特徴です。

また、一般的な乳がんの治療法であるホルモン療法や、ハーセプチンなどHER2(ハーツー)をターゲットにした分子標的薬が使えないことより、治療の選択肢が限られていることが問題となっています。

したがって、トリプルネガティブ乳がんの予後は悪く、とくに転移・再発症例の平均の生存期間はおよそ1年ときびしい状況です。現在、より有効な治療法を発見するために、様々な方法が試みられています。

今回、ステージ4のトリプルネガティブ乳がんに対して、標準治療と非標準治療を組み合わせた集学的治療(抗がん剤、ケトン食、温熱療法、高圧酸素療法)によって治癒(完全寛解)した症例が報告されました。

ステージ4のトリプルネガティブ乳がんに対する、抗がん剤、ケトン食、温熱療法、および高圧酸素療法による完全寛解:症例報告

Efficacy of Metabolically Supported Chemotherapy Combined with Ketogenic Diet, Hyperthermia, and Hyperbaric Oxygen Therapy for Stage IV Triple-Negative Breast Cancer. Cureus. 2017 Jul 7;9(7):e1445. doi: 10.7759/cureus.1445.

病歴および診断

症例は29歳の女性で、左乳房のしこりを自覚して病院を受診しました。

MRI検査では、左乳房に75 mm × 75 mm × 65 mmの大きさの腫瘤(しこり)があり、左の腋窩(わき)には腫大したリンパ節を複数みとめ、転移が疑われました。

左乳房のしこりの生検(組織検査)の結果、乳がん(浸潤性乳管がん)と診断されました。

また、エストロゲンレセプター、プロゲステロンレセプター、およびHER2がすべて陰性であり、トリプルネガティブ乳がんであることが判明しました。

PET(陽電子放出断層撮影)検査では、左乳房の腫瘤とわきの複数のリンパ節に加え、肝臓に多数の腫瘤左上腹部にも集積(陽性所見)がみられました(下図)。

乳がん多発転移PET治療前

以上の検査結果より、リンパ節、肝臓、および腹腔内への多数の転移をともなうステージ4のトリプルネガティブ乳がんと診断されました。

治療経過

治療として、抗がん剤治療(ドセタキセル、ドキソルビシン、およびシクロフォスファミド)に加え、ケトン食(ケトジェニック・ダイエット)全身温熱療法(ハイパーサーミア)、および高圧酸素療法を併用しました。

ちなみに抗がん剤治療は、12時間の絶食とインスリン投与によって投与前に低血糖状態(血糖値50~60 mg/dl)にする代謝サポートの抗がん剤治療(MSCT)という方法が使われました。

ケトン食は、おおまかに卵、葉物野菜、高脂肪乳製品、肉類、ナッツと種は摂取可とし、パン、パスタ、米、ポテト、砂糖、ハチミツ、フルーツは禁止としました(治療中の尿中ケトン体は陽性に保つようにしました)。

これらの治療を4ヶ月間継続しました。

治療効果の判定のためにPET検査を再び行ったところ、以前陽性であった乳がんの部位だけでなく、肝臓や他の部位の集積はすべて消失していました(下図)

乳がん多発転移PET治療後

その後、さらに2ヶ月間同じメニューの治療を継続した後、乳房切除術(+リンパ節郭清)を受けました。

切除した乳房組織の顕微鏡検査では、PET検査の結果を反映し、がん細胞は残っておらず、完全寛解と診断されました

まとめ

リンパ節、肝臓および腹腔内への転移をともなうステージ4のトリプルネガティブ乳がんに対し、代謝サポートの抗がん剤治療にケトン食、温熱療法、高圧酸素療法を併用した集学的治療によって完全寛解となった症例でした。

トリプルネガティブ乳がんに対する、これらの非標準治療の有効性についてはまだ確立されていません。今後、臨床試験などによってその有効性が証明されるのを待ちたいと思います。

ちなみに、低用量の抗がん剤治療に温熱療法と高圧酸素療法を組み合わせる集学的治療は、日本においても一部の施設で受けることが可能です。

いずれにせよ、全身に転移したステージ4の乳がんでも、非標準治療をふくめた様々な方法で治る可能性があるという貴重な報告だと思います。あきらめないことが大事です。

 


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