アスピリンによる大腸がんの生存率改善には免疫チェックポイント(PD-L1)が関与
解熱鎮痛剤として有名なアスピリンですが、最近ではがんを予防するだけではなく、がんによる死亡リスクを低下させる効果もあることが話題となっています。
例えば、大腸がんの診断後にアスピリンを常用した患者は、大腸がんによって死亡するリスクがおよそ15%低下したと報告されています。
このアスピリンによる抗がんメカニズムとして、がんの進行をうながす炎症因子であるプロスタグランジンの
つまり、アスピリンの抗がん効果は、免疫細胞の攻撃にブレーキをかける免疫チェックポイントの状態と関係している可能性があります。
今回、アスピリン服用による大腸がんの生存率改善効果を、免疫チェックポイントの状態(PD-L1の発現)との関係から調査した研究結果が報告されました。
今後の大腸がんに対する新たな治療法開発につながる重要な発見です。
免疫チェックポイントとは?
まずは免疫チェックポイントについて説明します。
人には、がん細胞を排除する免疫監視システムが備わっています。まずは抗原提示(こうげんていじ)細胞と呼ばれる見張り役が、がん細胞の特徴をヘルパーT細胞に知らせ、ヘルパーT細胞はキラーT細胞という兵隊に指示を出してがん細胞を攻撃させます。
一方で、この防衛システムにも暴走しないようにブレーキがあります。このブレーキのひとつが、免疫細胞(T細胞)の表面にあるPD-1(programmed cell death-1)と呼ばれる受容体(つまりカギ穴)です。
がん細胞は、免疫細胞の攻撃から逃れるために、PD-L1(あるいはPD-L2)というカギを免疫細胞のPD-1(カギ穴)に結合させて、ブレーキをかけてしまうのです。
したがって、このカギをたくさん持っている(つまりPD-L1の発現が高い)がんでは、免疫細胞にブレーキがかかりやすく、予後不良であると報告されています。
このPD-1(カギ穴)やPD-L1(カギ)を標的にした薬が、ニボルマブ(抗PD-1抗体)、ペンブロリズマブ(抗PD-1抗体)、あるいはアテゾリズマブ(抗PD-L1抗体)などの免疫チェックポイント阻害剤なのです。
現在日本では、抗PD-1抗体ニボルマブ(オプジーボ)は、悪性黒色腫(メラノーマ)、非小細胞肺がん、腎細胞がん、ホジキンリンパ腫、および頭頸部がんに承認を受けています。また胃がんに対しても申請中でしたが、最近承認されました。
今後はさらに新たな免疫チェックポイント阻害剤が導入され、適応となるがんの種類も増えていくと考えられます。
アスピリンの服用と大腸がん生存率:腫瘍の免疫チェックポイントの状態(PD-L1の発現)との関係
対象は、アメリカで行われた2つの前向きコホート研究の登録者のうち、大腸がんの診断をうけた617人です。
11.5年(中央値)の追跡期間中に325人が死亡し、このうち118人が大腸がんが原因で死亡していました。
これらの患者において、診断後のアスピリンの服用歴、生存期間および腫瘍のCD274(PD-L1)染色の結果との関連について調査しました。
結果を示します。
以上の結果より、アスピリン常用による大腸がんの生存率向上との関係は、腫瘍のCD274(PD-L1)の発現が低い患者で強くみられるという結果でした。
まとめ
今回の大規模なコホート研究では、診断後のアスピリン服用による大腸がんの死亡リスク低下は、腫瘍の免疫チェックポイントの状態によって大きく異なるという新たな所見が示されました。
すなわち、アスピリンの抗がん効果は、免疫チェックポイントのシグナル活性化が低下しているがんでより強く発揮されることが示唆されました。
これまでのところ、大腸がんに対する免疫チェックポイント阻害剤の効果は、(ミスマッチ修復機構欠損のある特殊な例を除き)単独ではあまり高くないという評価でした。
しかし今回の結果より、免疫チェックポイント阻害剤とアスピリン(あるいは他のプロスタグランジン阻害薬)の併用が、大腸がんに対する新たな治療戦略になる可能性があります。
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