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がん患者さんにみられる便秘の原因と対策(治療法)について:ガイドラインより

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がん患者さんによくみられる消化管症状のひとつに便秘があります。

報告によって異なりますが、がん患者の20~70%が便秘を経験するといわれています。

また、便秘はそれ自体が苦痛ですが、さらに食欲不振、嘔気、腹部の膨満(ぼうまん)、腹痛などを伴うことがあり、生活の質(QOL)を著しく低下させます。

したがって、便秘の原因をさぐり、適切な予防や治療を行うことが大切です。

今回は、「がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン」から、便秘の原因と治療(予防)について解説します。

便秘の定義

日本内科学会による便秘の定義は、「3日以上排便がない状態、または毎日排便があっても残便感がある状態」となっています。

しかし、実際には排便の習慣(頻度や量、硬さなど)は人によって様々です。例えば、1日便が出ないだけでもきつい人もいれば、4、5日便が出なくても平気な人もいます。

したがって、「ふだんよりも便が出ない時間が長く続いて不快感を感じる、あるいは排便があっても少量の硬い便しか出ない」という場合は便秘と考えてよいでしょう。

便秘の原因

がん患者さんにみられる便秘の原因は、おもに(1)がんによるもの、(2)薬剤性、(3)併存疾患の3つに分けられます。

以下に、それぞれの具体的な原因について代表的なものをあげます。

(1) がんによるもの

  • がんによる消化管の閉塞(腸から発生した腫瘍、あるいは腫瘍による外からの腸の圧迫)
  • がんの骨転移による脊髄損傷
  • 高カルシウム血症

(2) 薬剤性(薬によるもの)

  • 抗がん剤(ビンクリスチン(オンコビン)、ビンブラスチン(エクザール)、ビノレルビン(ナベルビン)、パクリタキセル(タキソール)など
  • 制吐剤(グラニセトロン(カイトリル)、オンダンセトロン(ゾフラン、サンド)、ラモセトロン(イリボー)など)
  • オピオイド(オキシコンチン、モルヒネ、フェンタニル、オキシコドンなど)
  • スコポラミン臭化水素酸塩(ブスコパンなど)
  • フェノチアジン系抗精神病薬(コントミンなど)
  • 三環系抗うつ薬(トリプタノール、アモキサンなど)
  • 制酸剤(カルシウム、アルミニウム含有)
  • 利尿薬(ラシックスなど)

(3) 併存疾患(がん以外の病気)

  • 糖尿病
  • 甲状腺機能低下症
  • 高カリウム血症
  • ヘルニア
  • 肛門病変(痔核、裂肛、脱肛、痔瘻、肛門狭窄など)
  • その他

便秘の治療

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がん患者さんの便秘に対する治療について解説します。

基本的には、日常生活において便秘を予防することが最も重要です。

また便秘の原因を特定し、もし可能であれば原因を取り除くことで便秘が解消されます。それでも便秘が持続する場合、患者さんで薬物療法と非薬物療法による治療が必要となります。

ときどき「毎日排便がないと絶対にいけない」と思い込んでいる神経質な患者さんがいらっしゃいます。このような患者さんには、毎日の排便にこだわらず、「明日出ればいいや」くらいにリラックスしてもらうようにしています。

予防

  • 排便がしやすい環境(プライバシーと快適さの確保)
  • 水分や繊維質(野菜や果物などの食物繊維)の積極的な摂取
  • 腸内環境を整える(発酵食品などプロバイオティクスをとる)
  • 身体活動(運動)をうながす
  • オピオイドなどの薬剤による便秘の予測と予防的な緩下剤の処方(これは多くの場合、医師が処方します)

薬物療法

便秘に対する治療薬は、便をやわらかくする薬剤と、蠕動(腸の動き)を刺激する薬剤の2つに大別されます。

一般的には、便が硬い場合には浸透圧性下剤を用い、蠕動が低下している場合には大腸刺激性下剤を用いることが推奨されています。また、効果が不十分であれば両者を併用して用いることもあります。

以下に代表的な便秘の治療薬をまとめます。

■ 経口薬

浸透圧性下剤
  • ラクツロース
  • 酸化マグネシウム(マグミットなど)
  • クエン酸マグネシウム
大腸刺激性下剤
  • センナ
  • センノシド
  • ビサコジル
  • ピコスルファートナトリウム(ラキソベロン)

■ 経直腸薬

大腸刺激性下剤
  • ビサコジル(テレミンソフト)
その他
  • グリセリン(浣腸)

非薬物療法

  • 規則正しい生活習慣
  • トイレの時間の確保(時間をきめて、ゆっくりと)
  • 適度な運動、ストレッチ、ヨガなど
  • 腹部のマッサージ
  • ハーブティーなど

以上ががん患者さんの便秘に対する予防・治療法です。

ちなみに、長引く便秘は腸閉塞のサインかもしません。便秘にくわえて腹部の膨満、腹痛、吐き気などの症状がでてきた場合には主治医に相談しましょう。詳しくはこちらの記事をどうぞ↓。

まとめ

がん患者さんによくみられる便秘ですが、生活の質に大きな影響をおよぼすにもかかわらず、過小評価されがちです。

便秘の原因をつきとめて、可能ならば除去します。また、食事、運動、排便の環境を整えるなどの予防が重要となります。

慢性の便秘には薬物療法と非薬物療法の組み合わせが効果的です。ひとりで悩まずに主治医や看護師に相談しましょう。

参考資料

がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン2011年版(日本緩和医療学会(編))

 


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  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

医師(産業医科大学 第1外科 講師)、医学博士。消化器外科医として診療のかたわら癌の基礎的な研究もしています。 標準治療だけでなく、代替医療や最新のがん情報についてエビデンスをまじえて紹介します。がん患者さんやご家族のかたに少しでもお役に立てれば幸いです。

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