オシメルチニブ(タグリッソ)がEGFR変異陽性の非小細胞肺がんに有効:ファーストラインの標準治療になるか?
肺がんは日本においても増加傾向にあり、がん死亡率トップの難治がんです。
しかしながら、近年の分子標的薬の開発・臨床への導入によって進行性の非小細胞肺がん患者の生存率は少しずつ改善しつつあります。
たとえば、EGFR(上皮成長因子受容体)遺伝子に変異がある非小細胞肺がんに対しては、分子標的薬であるEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR
これらの薬が効かなくなった場合には、オシメルチニブ(タグリッソ) が使用されます。
オシメルチニブは、EGFR感受性変異およびEGFR T790M耐性変異の両方を阻害し、脳転移など中枢神経系(CNS)転移に対しても効果を発揮するよう設計された第3世代のEGFR阻害剤です。
今回、EGFR変異陽性非小細胞肺がんに対する1次治療として、オシメルチニブと他のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(ゲフィチニブまたはエルロチニブ)を比較検討した第三相臨床試験の結果が報告されました。
今後は、ファーストラインの標準治療としてオシメルチニブが推奨される可能性があります。
非小細胞肺がんに対するEGFRチロシンキナーゼ阻害薬とは?
非小細胞肺がん患者さんのうち、EGFR(上皮成長因子受容体)という遺伝子に変異がある場合、がん細胞の増殖シグナルがオンになり、増殖・転移が促進されることがわかっています。
このEGFR変異は日本人の非小細胞肺がんでは多いとされ、とくに肺がんの中でも最も発症頻度が高く、増加傾向にある肺腺がんではおよそ50%にのぼるとされています。
この細胞内シグナル伝達経路をブロックする分子標的薬が、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)です。
現在、EGFR変異陽性非小細胞肺がんに対する1次治療として、ゲフェチニブ(イレッサ)、エルロチニブ(タルセバ)、あるいはアファチニブ(ジオトリフ)が使われています。
ところが、ゲフィチニブあるいはエルロチニブによる治療を受けている患者さんの約半分において、あらたな変異(2次変異)であるT790Mが出現することにより薬が効かなくなってしまいます。
一方、オシメルチニブ(タグリッソ)はこの2次変異を標的とした第3世代のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬であり、1次治療のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬に耐性ができた場合に使用されます。
さらに、EGFR変異陽性非小細胞肺がん患者さんの多くに脳転移が認められるのですが、オシメルチニブは血液脳関門(BBB)を通過するため、このような中枢神経系(CNS)転移をもった患者さんに対しても有効であると報告されています。
今回、EGFR変異陽性非小細胞肺がんに対する1次治療として、オシメルチニブが他の標準的なEGFRチロシンキナーゼ阻害薬と比較して生存期間を有意に延長することが、ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに報告されました。
進行性EGFR変異陽性非小細胞肺がんに対する1次治療としてのオシメルチニブの有効性:第三相臨床試験
Osimertinib in Untreated EGFR-Mutated Advanced Non-Small-Cell Lung Cancer. N Engl J Med. 2017 Nov 18. doi: 10.1056/NEJMoa1713137. [Epub ahead of print]
【対象と方法】
本試験(FLAURA試験)は、世界30カ国において、治療歴のない局所進行あるいは転移性EGFR変異陽性(エクソン19欠失変異またはエクソン21のL858R変異)非小細胞肺がん患者を対象とした二重盲検無作為化試験です。
556人の患者さんが登録され、オシメルチニブ群(タグリッソ 80mg 1日1回投与)または標準治療群(ゲフィチニブ 250mg 1日1回経口投与あるいはエルロチニブ 150mg 1日1回経口投与)にランダムに割り付けました。
両群間において、無増悪生存期間(プライマリーエンドポイント)および全生存率、安全性(有害事象)を比較しました。
【結果】
■ オシメルチニブ群の無増悪生存期間(中央値)は18.9ヶ月であり、標準治療群の10.2ヶ月に比べ、およそ2倍の延長を示しました(ハザード比 0.46; 95% 信頼性区間 [CI] 0.37-0.57; p<0.001)(下図)。
■ 奏功率は両群間で同様であったものの、治療反応期間(中央値)はオシメルチニブ群で17.2ヶ月、標準治療群で8.5ヶ月でした。
■ 全生存期間 (OS)においても、オシメルチニブ群は標準治療群と比べて死亡リスクを37%低下させました(ハザード比 0.63, 95% CI 0.45-0.88; p=0.007[中間解析では有意差なし])。
■ オシメルチニブ群におけるグレード3以上の有害事象の発現率(34%)は、標準治療群(45%)に比べて低いという結果でした。
■ 全症例において最もよく見られた有害事象は、発疹または座瘡(オシメルチニブ群58% 対 標準治療群78%)、下痢(オシメルチニブ群58% 対 標準治療群57%)および乾燥皮膚(オシメルチニブ群36% 対 標準治療群36%)でした。
【結論】
治療歴のない局所進行あるいは転移EGFR変異陽性非小細胞肺がん患者において、オシメルチニブは、エルロチニブもしくはゲフィチニブに比べ、無増悪生存期間を有意に改善しました。
安全性(副作用)についても、オシメルチニブは標準治療と比べて重度の有害事象の発現率はむしろ低いという結果でした。
本データにより、一次治療におけるオシメルチニブの優位性が示されました。
現在、オシメルチニブ(タグリッソ)がEGFR変異陽性非小細胞肺がんの一次治療として承認されている国・地域はありませんが、今後、標準治療となる可能性があります。
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