膵体尾部のがんは膵頭部のがんより悪性度が高い?遺伝子シグネチャーの解析結果より
膵臓がんは予後不良ながんとして有名ですが、がんが発生する部位によっても予後が違うことがわかっています。
膵臓は、からだの右側(十二指腸側)より頭部、体部、尾部に分類されますが、膵体部と膵尾部(いわゆる左側)のがんの方が、膵頭部(右側)のがんより転移が多く、生存率が低いと報告されています。
しかし、どうして頭部よりも体尾部のがんの方が予後が悪いのかについての理由はよく分かっていませんでした。
今回、一連の膵臓がん組織における遺伝子異常のパターンの調査により、膵体尾部のがんの高い悪性度の背景にひそむ分子レベルでの特徴があきらかとなりました。
膵臓の解剖とがん発生頻度
膵臓は、胃の裏側に位置する(どちらかというと背中に近い)後腹膜臓器であり、右側は十二指腸と癒合しており、左側は脾臓(ひぞう)に囲まれています。
膵臓は、右側から頭部、体部、尾部に分類されます。
膵臓がんは、膵頭部から発生することが多く、およそ60~70%を占めます。残りの30~40%が膵体部あるいは膵尾部から発生します(がんが頭部と体部、体部と尾部にまたがって存在することもあります)。
膵体尾部がんの分子(遺伝子)レベルでの悪性度評価
イギリスの研究者らは、膵臓がん患者から得られた切除標本を用い、遺伝子配列の解析を行いました。
Defining the molecular pathology of pancreatic body and tail adenocarcinoma. Br J Surg. 2018 Jan;105(2):e183-e191. doi: 10.1002/bjs.10772.
【対象と方法】
臨床情報が入手可能な518人の膵臓がん患者のうち、421人の切除標本について、DNAシークエンス(全ゲノムおよび全エクソンのシークエンス)が可能でした。
96人ではRNAシークエンシングを行い、266人では遺伝子発現マイクロアレイにて遺伝子発現の強度を調べました。
生存期間のデータがある262人について、遺伝子解析データのタイプとの関係を調査しました。
【結果】
■ 全体のうち、膵頭部がんが82%、膵体尾部がんが18%でした。
■ 膵頭部がんに比べ、膵体尾部がんのほうが、切除時腫瘍サイズが大きかった。
■ 膵頭部がんに比べ、膵体尾部がんのほうが生存期間が有意に短かいという結果でした(生存期間中央値:頭部22ヶ月、体尾部12ヶ月、P < 0.001)。
■ 遺伝子発現パターンのタイプを過去に報告されている4つのタイプ(Nature. 2016 Mar 3;531(7592):47-52)で分類すると、膵体尾部がんには「扁平上皮タイプ(squamous type)」が多いことがわかりました。
■ 扁平上皮タイプは、肝臓の転移(再発)と相関していおり、肝臓の再発は他の再発パターンよりも予後不良であった。
■ 膵頭部がん、膵体尾部がんをそれぞれ扁平上皮タイプとそれ以外(非扁平上皮タイプ)で分類したところ、膵体尾部がんの扁平上皮タイプが最も予後不良であった(中央値5.2ヶ月vsそれ以外22ヶ月)(下図)。
■ 遺伝子の特徴についてのより詳細な解析では、膵体尾部がんは浸潤・転移を促進する上皮間質転換(EMT)、炎症、低酸素反応、代謝再プログラミングなどと関連する遺伝子ネットワークと関連していた。一方で、腫瘍免疫反応は乏しい(免疫細胞の攻撃から回避する)という遺伝子パターンであった。
【結論】
膵頭部がんに比べ、「扁平上皮タイプ」に代表される膵体尾部のがんはより悪性度が高い遺伝子異常の特徴をもっていると考えられました。このことが、膵体尾部がんが予後不良であることの原因の1つとなっている可能性があります。
1つの仮説として、膵体尾部がんでは腫瘍がより大きくなる過程で、より低分化(つまり正常の膵臓の細胞からかけ離れた細胞)へと遺伝子レベルで進化していると考えられました(下図)。
今後、このような遺伝子異常(発現)のパターンによる生存期間の予測や精密医療(プレシジョンメディシン)への応用が期待されます。
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