膵消化酵素補充療法(PERT)の重要性:すい臓がん患者の生存期間を延長
すい臓がん患者では、病状が進行するにしたがい、栄養状態の悪化および体重減少に悩まされることになります。
例えば、60~80%の進行膵臓がん患者は、カヘキシア(悪液質:あくえきしつ)という、代謝障害を伴う重度の骨格筋の萎縮と臓器の機能不全の病態になると報告されています。
いわゆるがんによる「激やせ」の状態です。
東口高志先生の著書「がんでは死なないがん患者」にもありますが、がん患者の大分部は、がんそのものではなく、栄養障害(栄養失調)と、それに伴う免疫機能の低下と感染症によって命を落とすと言われています。
したがって、がんの治療においては、消化吸収をうながし、栄養状態を維持あるいは改善することが大切になってきます。
今回、「膵酵素(すいこうそ)補充療法が膵臓がん患者の生存期間を延長する」というデータが報告されました。
膵臓がん患者における膵外分泌機能不全
膵臓は、おもに2つの重要な機能を担っています。
一つは、内分泌機能といって、血糖値をコントロールするホルモン(インスリンなど)をつくって、血液中に分泌する機能です。
もう一つは、外分泌機能といって、消化吸収を助ける機能です。膵臓の腺房(せんぼう)細胞という細胞が消化液をつくり、膵管を通って十二指腸まで流れます(下図)。
このうち、外分泌機能がうまく働かなくなることを、膵外分泌機能不全(pancreatic exocrine insufficiency: PEI)と呼んでいます。
膵臓がん患者では、膵外分泌機能不全がみられることが多いのですが、この原因として、膵臓の切除手術、および膵管(膵液がながれる管)が腫瘍によってふさがれてしまうことが考えられています。
膵外分泌機能不全(PEI)が起こると、食べたものの消化・吸収がうまくいかず、栄養障害を引き起こします。
重症の場合にはカヘキシアとなり、死亡することもあります。
PEIに対する治療法として、膵消化酵素補充剤(日本ではパンクレアチン、パンクレリパーゼ(リパクレオン)など)の内服治療(いわゆる膵酵素補充療法:pancreatic enzyme replacement therapy, PERT)がおこなわれています。
膵酵素補充療法が膵臓がん患者の生存期間を延長する
Impact of the treatment of pancreatic exocrine insufficiency on survival of patients with unresectable pancreatic cancer: a retrospective analysis. BMC Cancer. 2018 May 5;18(1):534. doi: 10.1186/s12885-018-4439-x.
この研究では、切除不能膵癌の患者に対する膵酵素補充療法の予後(生存期間)への影響を調べました。
【対象と方法】
160人の切除不能膵癌(うち、79%が転移のあるステージ4)患者を、次の2つのグループに分けました。
- グループ1:通常の治療のみを受けたグループ
- グループ2:通常の治療に加えて、膵外分泌機能の評価を行い、必要があれば膵酵素補充療法(以下、補充療法)を追加したグループ
この2つのグループにおける生存期間を比較しました。
【結果】
■ 全体のうち、86人(54%)がグループ1、74人(46%)がグループ2で、グループ2のうち、49人(66%)が補充療法を受けていました。
■ グループ1の患者より、グループ2の患者の方が、緩和的な抗がん剤治療を受けた人の割合が有意に多かった(グループ1が47%、グループ2が72%)。
■ グループ2の患者の全生存期間は、グループ1の患者より有意に延長していた(およそ2倍、P < 0.001)。
【結語】
切除不能進行膵臓がん患者において、膵外分泌機能障害がある場合、(とくに体重減少がある患者では)補充療法は予後を改善するという結果でした。
膵消化酵素補充剤
日本においては、膵消化酵素補充剤として、パンクレアチンや、リパクレオンカプセルまたはリパクレオン顆粒(マイランEPD、下図)が一般的です。
膵臓がんの術後の患者さんには、よく処方されていると思います。
まとめ
膵臓がんによって膵外分泌機能障害がある患者では、補充療法(PERT)によって生存期間が延長する可能性があります。
日本では、膵酵素補充剤としてパンクレリパーゼ(リパクレオン)が処方されています。
ただし、膵酵素補充療法の有効性を確証するためには、今後、ランダム化比較試験などより大規模な試験が必要です。