不可逆的電気穿孔法(ナノナイフ)が膵癌に対する免疫チェックポイント阻害剤の効果を高める
第4の標準治療として話題の免疫チェックポイント阻害剤(オプジーボ、キイトルーダなど)ですが、(メラノーマといった他のがんに比べ)膵臓がんに対してはあまり効かないことが分かっています。
その最大の理由のひとつとして、膵臓がんの特徴である、分厚い間質(かんしつ:がん細胞のまわりを取り囲む組織)の存在があります。
つまり、がんを取り囲む間質がバリアとなって、がんを直接攻撃する免疫細胞であるT細胞が、がん細胞に近づけないと考えられています。
また、間質の環境は、攻め込んできたT細胞の活性を低下させることがわかっています。
そこで、この免疫細胞の邪魔をする間質をターゲットとして、免疫治療の効果を高める研究がおこなわれてきました。
今回、ナノナイフとして知られる不可逆的電気穿孔法が、間質の免疫細胞を活性化し、膵臓がんに対する免疫チェックポイント阻害剤(抗PD-1抗体)の治療効果を高めることが実験的に示されました。
今後、ナノナイフ治療とキイトルーダ(あるいはオプジーボ)などを併用することが、膵臓がんに対する新たな治療戦略となることが期待されます。
不可逆的電気穿孔法(ナノナイフ)とは?
不可逆的エレクトロポレーション(Irreversible electroporation: IRE)治療(商品名:ナノナイフ(NanoKnife®)は、がんを局所的に焼灼する比較的新たな治療法です。
具体的には、皮膚の上から、あるいはお腹を開けて、細い電極針を、がんを取り囲むように刺し、3000ボルトの高電圧で電流を流すことにより、がん細胞にごく小さな穴をあけて死に至らしめる治療法です。
これまで外科的に切除ができないと診断された進行膵臓がんにも適応可能な治療法として、期待が高まっています。
国内では、国際医療福祉大学病院教授で山王病院がん局所療法センター長の森安史典(もりやす・ふみのり)医師が、膵臓がんに対してナノナイフ治療を行っており、これまでに多くのの治療実績があります。
現時点での膵臓がんのナノナイフ治療の適応は、遠隔転移や腹膜播種の無い「切除不能の局所進行膵臓がん」であり、日本のステージ分類ではステージⅢ(膵癌取扱い規約第7版による)になります。
詳しくは、こちらの本をどうぞ。
不可逆的電気穿孔法が膵臓がんに対する免疫チェックポイント阻害剤の効果を高める
Irreversible electroporation reverses resistance to immune checkpoint blockade in pancreatic cancer. Nat Commun. 2019 Feb 22;10(1):899. doi: 10.1038/s41467-019-08782-1.
この研究では、マウスの膵臓がん実験モデル(KRASモデル)を用いて、不可逆的電気穿孔法(以下、IRE)と抗PD-1抗体の併用治療の効果を調べました。
- 治療を受けないコントロールのグループ、
- 抗PD-1抗体だけ投与するグループ、
- 開腹してIRE治療だけ行うグループ、
- IRE治療と抗PD-1抗体の投与を併用するグループ
に分けて、腫瘍の大きさや生存期間などを比較しました。
おもな結果を示します。
治療を受けなかったコントロール、抗PD-1抗体単独、およびIRE単独の治療グループに比べ、IREと抗PD-1抗体を併用したマウスは、有意に腫瘍の増殖が抑えられ、生存期間が延長しました(p < 0.0001)。
腫瘍内の免疫細胞の分布では、コントロール、抗PD-1抗体単独、およびIRE単独の治療グループに比べ、IREと抗PD-1抗体の併用群では、がん細胞を殺傷する「CD8陽性キラーT細胞」へ分化する「CD8陽性T細胞」が有意に多くなっているという結果でした。
IREと抗PD-1抗体の併用によって60日間生存したマウスに、再びがん細胞を移植したところ、長期にわたって腫瘍は形成されませんでした。
まとめ
以上の結果より、IREと抗PD-1抗体の併用群は、間質を変化させておもにCD8陽性T細胞を誘導し、腫瘍の成長をおさえ、生存期間を延長することが示されました。
さらに、このIREと抗PD-1抗体の併用治療による免疫監視反応の活性化は、長期にわたって続くことが示されました。
著者らによると、IREは、膵臓がんに対する免疫チェックポイント阻害剤の効果を高める治療であると結論づけています。
まだ前臨床段階ではありますが、膵臓がんに対してナノナイフ治療とキイトルーダやオプジーボなどを組み合わせることで、治療効果が高まる可能性があります。
今後の臨床試験をふくめ、さらなる研究結果に期待したいですね。