一度がんと診断された人はその後も新たながん(重複がん)に注意
最近のがん治療の進歩にともなって、がんを克服する「がんサバイバー」が急増しています。つまり、がんでも長生きできる時代となりました。
これに伴い、たとえ最初の「がん」を治療により克服しても、他の臓器に別の「がん」が発生することも決してまれではなくなりました。
また、がんと診断された人に、ほぼ同時に他の部位にがんが見つかることもあります。
最近では、タレントの堀ちえみさんが、舌がんに対する手術をうけた直後に食道がんが見つかり、内視鏡による切除をうけました。幸いにもステージ0と非常に早期だったとのことです。
このように、がんと診断された患者さんや、治療をうけたサバイバーに、新しいがんができることはめずらしいことではなく、「重複がん」と呼ばれます。
今回は、重複がんについて、その頻度、原因や多い臓器の組み合わせ、および発見する方法などについて解説します。
重複がんとは?
がんと診断された人が、その後、他の部位や臓器に新たながんが発生した場合を(異時性)重複がん(あるいは、多重がん)と呼びます。この重複がんはどのくらいの頻度でみられるのでしょうか?
日本における35万人以上のがんと診断された患者を追跡調査した研究によると、2.5年(中央値)の観察期間中に13,385人(3.8%)が重複がんを発症していました(Cancer Sci. 2012 Jun;103(6):1111-20.)。
この重複がんの発生率は、年齢や性別を問わずに一般人口でのがん発生率に比べて高いことより、がんと診断された人では、新たながんを発症するリスクが上昇することが示されました。
とくに、60歳代で最初のがんと診断された人では、その後の10年間に新たにがんと診断される確率は13%(男性で16%、女性で9%)にまで高まると推定されるとのことです。
また、部位(臓器)別にみると、最初のがんが口腔・咽頭がん、食道がん、喉頭がんの場合、これらのうち他のがんを発症するリスクが非常に高くなっていました。
さきほどの堀ちえみさん(舌がん→食道がん)がこのパターンですね。
海外からの重複がんの研究データ
Risk of second primary malignancies among cancer survivors in the United States, 1992 through 2008. Cancer. 2016 Oct;122(19):3075-86. doi: 10.1002/cncr.30164. Epub 2016 Jul 5.
米国の大規模データベースに基づいた重複がんの研究によると、一般的な10種類のがん(前立腺がん、乳がん、肺がん、結腸がん、直腸がん、膀胱がん、子宮がん、腎臓がん、皮膚がん、非ホジキンリンパ腫)と診断された約200万人の患者について追跡調査したところ、以下のことがわかりました。
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平均7年の観察期間中に約17万人(8.1%)が別のがん(重複がん)を発症していました。
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重複がん(二番目のがん)で多かったのは、肺がん(18%)、大腸がん(12%)、前立腺がん(9%)でした。
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最初のがん(悪性腫瘍)が非ホジキンリンパ腫(男性で2.7倍、女性で2.9倍)および膀胱がん(男性で1.9倍、女性で1.7倍)の場合、次のがんを発生する確率が高くなっていました。
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重複がんを発症した患者のうち、13%は最初のがんが原因で死亡していましたが、55%は二番目のがんで死亡していました。
以上の結果より、がんと診断された人では重複がんを発症するリスクが高く、また、二番目のがんが原因で死亡することが多いことより、がんサバイバーでは重複がんの検査も含めた慎重な経過観察が重要であると述べています。
重複がんの原因(重複しやすいがんのパターン)
重複がんの原因としては、遺伝子異常などの素因によるもの、環境や生活習慣(喫煙、飲酒、食事、運動など)の関与によるもの、あるいは最初のがんに対する治療の影響(抗がん剤や放射線治療による二次性発がん)などがあります。
このため、最初のがんの種類によって、次に発症しやすい重複がんが違うことがわかっています。
例えば、肺がんと診断されたサバイバーは、少なくとも10年間は、喫煙が原因と考えられているがん(肺がん、喉頭がん、咽頭がん、口腔がん、食道がん(扁平上皮がん)など)を発症するリスクが高いことが報告されています。
最初のがんが消化管(胃がんや大腸がん)の場合は、重複がんとしてやはり消化管のがんが多いことがわかっています。例えば、胃がんと診断された人では大腸がんが発生することが多く、大腸がんと診断された人では胃がんのリスクが高まることが報告されています。
乳がんの場合、重複がんとして卵巣がん、膵臓がん、および皮膚がんが多いことが報告されています。
重複がんを見つけるためには?
いずれにしても、一度がんと診断された人は、重複がんのリスクを念頭におき、より慎重ながん検診が必要です。とくに抗がん剤や放射線治療を受けた人では、重複がんのリスクが高くなる可能性があります。
もちろん、最初のがんの治療を受けた病院で定期的な再発や転移のチェックは受けると思いますが、多くの場合、必要最小限の検査しか行わないため、他のすべての臓器のがんの検査まではカバーしていません。
より早期に重複がんを発見するためには、やはり最初のがんを治療した病院での定期検査に加え、対策型(自治体の)がん検診や任意型のがん検診(人間ドック、がんドックなど)が欠かせません。
例えば、大腸がんと診断された人は、胃がんのリスクが高いと考えられるため、定期的に胃内視鏡検査を受けるべきでしょう。
まとめ
一度がんの診断をうけた人は、新たに別のがん(重複がん)を発症するリスクが高いことがわかっています。
がんサバイバーでは、重複がんを早期に発見するために、より積極的ながん検診(対策型+任意型)を受けることをおすすめします。