膵臓がん

膵がん患者さんが日常生活で配慮したいこと:食事・運動・メンタル

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先日(2019年3月30日)、パンキャンジャパン福岡支部主催の「膵がん勉強会・患者サロン in 産業医科大学病院」において、「膵がん患者さんが日常生活で配慮したいこと:食事・運動・メンタル」というタイトルでお話をさせて頂きました。

当日はたくさんの皆様にご参加いただきました。

今回、講演内容の一部をスライドとともに紹介します。より多くの膵がん患者さんのお役に立てれば幸いです。

パンキャンジャパン膵がん勉強会20190330その1

膵がん患者さんが治療に際して注意すること

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まず、がんの治療を受けるときに大切な3つのことは、

1.正確な情報を幅広く集めること

2.治療のゴール(根治、延命、生活の質を重視(緩和))を決めて、主治医と共有すること

3.病院での治療に加えて、自分でできること(セルフケア)をやること

この3点です。

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とくに、「がんは情報戦」と言われるほど、正確な情報を集めることが大切です。

では、どうやって正確ながんの情報を集めればよいのでしょうか?

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まずは、主治医から「あなたのがん」について詳しい情報を得ましょう。

標準治療(治療の効果が証明されている現時点でベストの治療)については、ガイドラインを参考にしましょう。膵がんでは、患者さん向けのガイドラインも発売されています。

標準治療以外の治療法については、まずは主治医に聞いてみることをおすすめします。

また治験の情報などは、がん相談支援センターでも確認できます。

少し大変ですが、日本語・英語で最新の医学論文を自分で調べることもできます。

さらに、信頼できるウェブサイト(国立がん研究センター「がん情報サービス」など公共の非営利団体が運営しているもの)からがんの情報を得ましょう。

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一方で、がんサバイバー、親戚、知り合いからの情報、SNS(ツイッター、フェイスブックなど)、がんの本(食事療法など)、さらに一般のウェブサイト(個人のブログ、免疫療法クリニック、サプリメント会社などの宣伝目的)からの情報は、間違ったものも多く、注意が必要です。

主治医やまわりの医療者とよく相談し、あくまで参考にとどめておくべきです。

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治療の選択にさいしては、まずは「標準治療」を選びましょう。

ガイドラインでは、がんの進行度(ステージ)に応じて、手術、抗がん剤、放射線治療が推奨されています。

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ただ、膵がんの場合、標準治療だけでは治療が難しいこともあります

この場合、高度先進医療の粒子線治療、温熱療法、ナノナイフ、(転移に対する)SBRT、ラジオ波焼灼、あるいは免疫治療など、さまざまな非標準治療(標準治療以外の治療法)も選択肢としてあります

一部の治療法は、学会報告や後ろ向き研究のレベルではありますが、効果が確認されています。

ただ、これらの非標準治療は、通常全額自己負担となるため「お金がかかること」、そして「ランダム化比較試験などで証明された、しっかりとしたエビデンスはない」ということを理解した上で受けましょう。

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また、病院での治療だけでなく、以下のようなセルフケアの中から自分にあったものを積極的に取り入れましょう。

  • 食事療法
  • ハーブ(サプリメント)
  • 運動療法
  • 瞑想、ヨガ、音楽療法など
  • 温熱療法(お灸、温泉、サウナなど)

これらのセルフケアはお金もあまりかかりませんので、試してみる価値はあります。

食事・サプリメントについて

膵がん患者さんのセルフケアとして、食事・サプリメントについてお話します。

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結論から言うと、「がんに効く」というしっかりとしたエビデンスのある食事療法はありません。

とくに、ゲルソン療法や野菜・果物ジュースだけを大量に飲み続けるといった偏った食事療法はむしろ危険ですのでおすすめできません。

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ですので、まずはがん患者さんには「バランスよく」食べることをおすすめしています。

また、1日3食にこだわらず、食べられないことがあっても気にしないことです。食欲がなかったらスキップしても大丈夫です。お腹がすくまで待ちましょう。

また、少しの食べ物ですぐに満腹になる患者さんは、1回に食べる量を減らし、食事の回数を増やすなどの工夫をしましょう。

栄養に関しては、タンパク質の摂取を意識した食事を考えましょう。どうしてもがん患者さんはタンパク質が不足しがちになります。

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食欲がないときには、ヨーグルト、茶碗蒸し、豆腐(冷や奴や湯豆腐)、牛乳(豆乳)ゼリー、鶏のつみれ汁などでタンパク質を補いましょう。

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ある程度しっかり食べることができる患者さんで、もし食事療法を考える場合には、最近、大腸がん患者さんで生存率を高める効果が報告された「野菜中心の低糖質ダイエット」をしましょう。

これは、糖質(白米、白パン、加糖飲料など精製された炭水化物)を減らし、その分、肉(動物性食品)よりも、野菜などの植物性食品に置き換えるという食事療法です。

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また、野菜は基本的にはお好きなものでよいのですが、できれば「がんの予防や治療に効果が期待される成分」が含まれているもの(ブロッコリースプラウト、きのこ類、タマネギ、ニンニク、ショウガなど)を摂りましょう。

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おやつには、ナッツを食べることをおすすめします。

そもそもナッツの摂取は膵がんの予防に有効とされていますし、ナッツを食べることで大腸がん患者の生存期間が延長することが報告されています。

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サプリメントに関しては、あくまでも食事で足りない(あるいは食事から摂取できない)栄養素を補充し、体力・筋力を維持する目的でとりましょう。

なかには「抗がんサプリメント」といった宣伝もみかけますが、サプリメントに依存しないこと、高額なサプリメントにだまされないことが大切です。

運動について

次に、運動についてです。

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がん患者さんには、とにかく「運動すること」をすすめています。

皆さんの中には「なぜ、がん患者に運動が必要か」といった疑問をお持ちの人もいるかも知れません。

以下の理由があります。

  • 運動するがん患者の方が予後が良い(再発が減る、生存期間が延長)
  • 筋肉やせ(サルコペニア)を予防できる
  • 筋肉から分泌される物質(マイオカイン)が抗がん作用を持つ
  • 運動によってNK細胞などの免疫細胞が活性化される
  • がんカヘキシア(悪液質)の予防に有効

運動には、このような効果が期待できるのです。

では、どのような運動をすればよいのでしょうか?

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まずは、有酸素運動です。毎日30分を目標にしましょう(15分を2回でもOK)。

  • ウォーキング、ジョギング
  • サイクリング(エアロバイク)
  • スイミング
  • エアロビクスダンス

などから好きなものをやりましょう。

同時に、レジスタンス運動(いわゆる筋トレです)を週に2~3回(20分)を目標にやりましょう。

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具体的には、上半身の筋肉には、ダンベルを使ったダンベル運動、腕立て伏せ(きつい人では壁立て伏せ)が有効です。

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下半身には足あげ運動、脚の後ろあげ運動が有効です。

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さらに、骨格筋を鍛えるベストの筋トレが「スクワット」です。

けっこうきついのですが、スクワットが楽にできる健康器具なども販売されています(私も利用しています)。

また、スポーツジムに通うこともおすすめです。

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筋トレ後には、プロテインを飲みましょう。

レジスタンス運動の後にホエイプロテインを飲むことで、筋肉量の維持・増加に有効であったという報告があります。

最近では色々なフレーバーのプロテインが販売されていますので、好みのものを選びましょう。

メンタルについて

最後に、メンタルについてです。

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以前にブログで紹介しましたが、がんを克服する人には、次のような共通のマインドセット(こころの持ち方)があるように思えます。

  1. がんを必要以上に怖れない
  2. くよくよせずいつも笑顔でいる
  3. 自分で治療法を決定する
  4. 現実を受け入れて前向きに考える
  5. 趣味や好きなことをあきらめない
  6. まわりの人に甘えず自分の役割を放棄しない
  7. 感謝の気持ちを忘れない

このような気持ち、心構えで過ごせたらいいですね。

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とくに、病気(がん)についてくよくよ悩んだり心配する人よりも、「大丈夫、なんとかなるさ」と楽天的に考える人の方が、死亡のリスクが減って、長生きすることが研究でも証明されています。

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とはいえ、がん患者さんは、何かにつけてがんのことを思い出し、心配や不安が襲ってきます。

落ち込みや不安が強いときには、以下のことを試してみましょう。

  • 家族やまわりの信頼できる人に話を聞いてもらう
  • がん治療経験者、がんサバイバーと話す
  • がんを克服した人の闘病記などを読む
  • 気晴らしに楽しいこと・好きなことをする
  • 主治医、看護師、がん相談窓口のスタッフなどに相談する

少しでも気持ちが晴れて楽になるでしょう。

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また、瞑想(とくにマインドフルネス瞑想)、ヨガや音楽療法などが、がん患者さんの不安や心配を軽減し、生活の質を高めると報告されています。

日本ではまだ浸透していませんが、これらの代替療法はアメリカではエビデンスのあるセルフケアとして学会でも推奨されています。

座禅でも何でも気分が落ち着くものがあればよいので、自分に合うものを取り入れましょう。

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また、がん患者さんは、できなくなったことや失ったものばかりに気持ちが集中しがちです。

そこで、がんになって気づいた大切なこと(キャンサーギフト)に目を向けてみましょう。

  • 生きていることの喜び
  • 1日1日の大切さ
  • 家族の深い愛情
  • まわりの人のやさしさ
  • 健康のありがたみ
  • 食べ物のおいしさ
  • 何気ない風景の美しさ

など、がんになって気づいたことはありませんか?できればノートや日記に書いていきましょう。

いつの間にかキャンサーギフトで一杯になるかもしれません。

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少しスピリチュアルで怪しい感じもしますが、肯定的な言葉をくりかえし唱えるアファメーションもおすすめです。

  •  私はあらゆる面でますます良くなっています
  •  今の治療はきっとうまくいくぞ                  
  •  病気(がん)は私のからだからどんどん消えつつある
  •  生きていることはすばらしい
  •  明日はもっといい一日になる
  •  5年後や10年後はもっともっと健康で幸せになる

こういった言葉を朝晩2回、声に出して読み上げてみましょう。

まとめ

以上、「膵がん患者さんが日常生活で注意すること」をまとめます。

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最後に、私からのメッセージです。

スライド68がんは死を意識する病気です。

ただ、人はがんでなくてもいつか必ず死にます。

この世に生まれてきたこと、朝、目が覚めることは奇跡だと思いませんか?

がんになったことを悔やむのではなく、キャンサーギフトを探しましょう!

そして、1日1日を感謝の気持ちを持って大切に生きたいですね

  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

医師(産業医科大学 第1外科 講師)、医学博士。消化器外科医として診療のかたわら癌の基礎的な研究もしています。 標準治療だけでなく、代替医療や最新のがん情報についてエビデンスをまじえて紹介します。がん患者さんやご家族のかたに少しでもお役に立てれば幸いです。

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