オラパリブはBRCA遺伝子変異がある膵臓がんの生存期間を延長
オラパリブは、DNAの修復酵素であるPARP(ポリADP-リボースポリメラーゼ)を阻害する分子標的薬の1つです。
このPARP阻害剤は、乳がん(または卵巣がん)の原因遺伝子として有名なBRCA遺伝子(BRCA1またはBRCA2)に変異を認めるがんにより効果が高いという特徴があります。
つまり、遺伝子変異のタイプに応じたオーダーメイド治療(精密医療、プレシジョン・メディシン)といえます。
膵臓がんの患者さんのなかにも、BRCA遺伝子(BRCA1またはBRCA2)に変異を認めるケースがありますので、この薬の効果が期待できます。
今回、BRCA遺伝子変異が陽性の転移性膵臓がん患者に対するオラパリブの効果を調べたランダム化比較試験の結果が報告されました。
その結果、オラパリブは無増悪生存期間(progression free survival)を有意に延長し、進行(または死亡)のリスクをおよそ半分も減らすことが確認されました。
PARP(ポリADP-リボースポリメラーゼ)阻害剤とは?
このPARPという酵素は、DNA損傷に伴い活性化され、DNAの損傷を修復します。
抗がん剤で傷つけたがん細胞のDNA修復にも関わると言われており、抗がん剤が効きにくくなる原因のひとつと考えられています。
このPARPを阻害する分子標的薬がPARP阻害薬です。
BRCA1あるいはBRCA2の変異は、遺伝性乳がんや卵巣がんのがんの原因になりますが、逆にBRCA1/2の変異がある患者さんは、PARP阻害剤が効きやすいことがわかっています。
実際に、BRCA1遺伝子に変異のある卵巣がんや乳がんに対する臨床試験では、高い効果が証明されています(下記の過去記事参照)。
現在(2019年5月)、日本では、経口PARP阻害剤であるオラパリブ(リムパーザ:アストラゼネカ)が、卵巣がん(白金系抗悪性腫瘍剤感受性の再発卵巣癌における維持療法)および乳がん(がん化学療法歴のあるBRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳がん)に適応となっています。
他のがんに関してはまだ治療効果は確認されていませんが、海外では膵臓がん患者を対象とした臨床試験が行われています。
今回、BRCA遺伝子変異を有する転移性膵臓がん患者に対するオラパリブの効果を検証したランダム化比較試験の結果が、イギリスの一流医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン報告されました。
BRCA遺伝子に変異がある転移性膵臓がんに対するオラパリブの有効性(ランダム化比較試験)
対象と方法
このランダム化プラセボ対照比較試験では、まず膵臓がん患者3315人にスクリーニング検査を実施し、BRCA遺伝子変異(生殖細胞変異)を持つ247人(7.5%)を特定しました。
このうち、白金製剤による治療後の維持療法(maintenance therapy)として条件を満たす154人を、オラパリブ群(92人)およびプラセボ(偽薬)群(62人)にそれぞれ無作為に割り当てました。
有効性(無増悪生存期間、全生存期間)および安全性(副作用)を比較しました。
結果
■ 無増悪生存期間は、オラパリブ群で7.4ヶ月、プラセボ群で3.8ヶ月であり、オラパリブ群で有意に延長していました(P = 0.004)。進行(または死亡)のリスクは、プラセボ群と比べてオラパリブ群で47%も低下する(ハザード比0.53)という結果でした(下図)。
結語
以上の結果より、維持療法としてのオラパリブは、BRCA遺伝子変異がある転移性膵臓がん患者の無増悪生存期間を有意に延長することが証明されました。
まとめ
経口PARP阻害剤オラパリブは、BRCA遺伝子変異のある卵巣がんや乳がんに対する有効性が証明され、承認されている分子標的薬です。
今回、BRCA遺伝子変異のある膵臓がん患者さんに対するオラパリブの有効性が、ランダム化比較試験で証明されました。
この試験の結果を受け、まずはアメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration)で承認され、その後、(しばらく時間がかかりますが)日本においても安全性・有効性の確認後、承認される流れになると思います。
膵臓がん患者さんの中でBRCA遺伝子変異がある人は比較的少ないのですが、新しい治療の選択肢として期待できます。
今後、ますますこのような遺伝子変異のタイプに応じたオーダーメイド治療(プレシジョン・メディシン)が進んでいくことは間違いないと思います。
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