抗がん剤による脱毛予防に頭皮を冷却する装置(帽子)が有効:国内外の最新情報
抗がん剤のよくみられる副作用のひとつに脱毛があります。
脱毛は、男女問わず精神的な苦痛となり、いちじるしく生活の質を落とします。
とくに乳がんに対する抗がん剤治療で多くみられますが、女性にとっては、がんの治療を選択するうえで、できれば最も避けたい副作用であるといえます。
抗がん剤による脱毛を予防するための確立された方法はありませんが、以前より頭皮を冷やすことによって抗がん剤による脱毛を予防・軽減する試みが研究されてきました。
今回、抗がん剤治療にともなう脱毛を予防するための頭皮冷却装置について、国内外での情報をお伝えします。
脱毛をきたしやすい抗がん剤
脱毛をおこすことが多い代表的な抗がん剤には、以下の薬があります。
これらの薬は、乳がんに対する抗がん剤治療でよく使われています。
抗がん剤による脱毛のメカニズムと時期
抗がん剤によってなぜ脱毛がおこるかについてのはっきりとしたメカニズムは分っていません。
一般的に、抗がん剤はがん細胞のように活発に細胞分裂をくり返している細胞に傷害を与えます。毛母細胞(髪の毛のもとになる細胞)は、細胞分裂が活発に行われているため、抗がん剤によるダメージが大きく、このため脱毛がおこると考えられています。
抗がん剤の種類や治療期間にもよりますが、脱毛は抗がん剤治療をはじめて2~3週間ではじまります。脱毛は一時的なもので、多くの場合、治療終了後3~6ヵ月で再び毛が生え始めますが、なかには毛根のダメージがひどく、永久脱毛となることもあります。
現在、抗がん剤による脱毛を防ぐ有効な方法はまだ確立されていません。しかし海外の臨床研究において、頭皮を冷却することで、抗がん剤による脱毛を防げるという結果が報告されるようになりました。
頭皮冷却装置を用いた抗がん剤による脱毛予防:海外の臨床試験
頭皮冷却装置を使った脱毛予防についての代表的な臨床研究を紹介します。
Association Between Use of a Scalp Cooling Device and Alopecia After Chemotherapy for Breast Cancer. JAMA. 2017 Feb 14;317(6):606-614. doi: 10.1001/jama.2016.21038.
術前抗がん剤治療をうける早期(ステージIまたはII)の乳がん患者122人(106人は頭皮冷却群で、16人はコントロール群)を対象としたアメリカでの臨床試験です。
頭皮冷却群では、抗がん剤投与の30分前から頭皮冷却を開始し、投与中から投与後90~120分間、頭皮の温度を3℃に保ちました。
脱毛の程度は、抗がん剤投与後4週間でディーンスコアという方法で客観的に調査し、スコアが0から2(50%以下の脱毛)を治療(脱毛予防)の成功と定義しました。
結果ですが、
頭皮冷却群の101人中67人(66%)で脱毛の予防効果(50%以下の脱毛)がみられ、一方でコントロール群ではこのような効果はみられませんでした(50%以下の脱毛は16人中0人(0%))(P < 0.001)。
またこれに伴って、頭皮冷却群では抗がん剤終了後1ヶ月目における生活の質も改善していました。
実際に頭皮冷却が脱毛予防に有効であった1例を提示します(下図)。脱毛をきたしやすい4サイクルの抗がん剤治療(ドセタキセルとシクロフォスファミド)後、1ヶ月の時点で脱毛は25%以下にとどまっています(ディーンスコア1)。
頭皮冷却にともなう有害事象については、頭痛(4%)や悪寒(3%)などごく軽度のものでした。
さらに、これまでに諸外国で行われた、頭皮冷却と抗がん剤による脱毛予防との関係についての臨床研究をまとめた論文を紹介します。
Scalp Hypothermia for Preventing Alopecia During Chemotherapy. A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Clin Breast Cancer. 2017 Aug 10. pii: S1526-8209(16)30543-2. doi: 10.1016/j.clbc.2017.07.012. [Epub ahead of print]
過去の臨床研究を検索し、基準を満たすものを総合的に解析しました。
その結果、全部で654人のがん患者(うち乳がんが432人(66%))を対象とした10の臨床試験において、頭皮冷却は(50%以上の)脱毛のリスクを43%減少させるという結果でした。
これらの結果より、術前抗がん剤治療をうける乳がん患者において、頭皮冷却は脱毛を予防する効果的な方法であると結論づけています。装置によっても異なりますが、およそ4~6割の患者さんに効果が期待できます。
頭皮冷却が脱毛を抑えるメカニズムは、頭皮を冷やすことで血管を収縮させ、毛母細胞に到達する抗がん剤の量を減らすことによって脱毛が抑えられると考えられています。
一方で、頭皮への抗がん剤の到達が減ることで、頭皮へのがんの転移が増加するのではないかという懸念もありますが、いくつかの頭皮冷却の長期経過をみた研究報告によると頭皮への転移は増加しないとのことでした。
頭皮冷却装置に関する国内外での情勢
2015年、アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration)は、頭皮冷却装置(商品名ディグニキャップ:下図)の乳がん患者への使用を承認しましたが、2017年7月には乳がん以外のがんにも適応を拡大しました。
ディグニキャップ公式ホームページ(https://dignicap.com/)より
これによって、アメリカでは乳がんに加え、肺がん、大腸がん、胃がんなどの固形がん患者さんにもディグニキャップを使用できるようになりました。
一方、日本では、国立がん研究センター中央病院において、「化学療法実施中乳がん患者に対する頭皮冷却法の確立と安全性に関する研究」が実施され、また、いくつかの施設において、試験的に頭皮冷却装置が導入されつつあります。
熊本中央病院では、ステージ1〜3の乳がんで、術前・術後の化学療法を受ける患者さんを対象とした『ステージⅠ/Ⅱ/Ⅲ期の初発乳癌に対する術前・術後化学療法の施行患者を対象にした「PAXMAN®︎頭皮冷却装置を用いた脱毛抑制・軽減」の有効性と安全性に関する研究』を平成29年9月より実施中とのことです(くわしくは、こちら)。
さらに最近、リーブ21 は、抗がん剤治療の副作用による頭髪の抜け毛、脱毛の低減・抑制をめざす頭皮冷却装置「セルガード」を開発・製造を開始したとのことです。
予定価格は432万円とのことで、今年(2020年)の秋からがん診療連携拠点病院などに販売していくそうです。
まとめ
脱毛は非常に深刻な副作用です。
国内における頭皮冷却システムの臨床試験および導入がすすみ、一刻も早く、抗がん剤治療をうけるすべての患者さんに使用できるようになって欲しいですね。
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