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抗がん剤治療中には感染症予防のために人混み、生もの(刺身)、ペットとの接触は避けるべきか?

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一般的に、抗がん剤治療中はからだの抵抗力が低下します。

とくに抗がん剤の副作用で好中球(白血球の一種で、からだに侵入してきた細菌などと戦う細胞)が減っている患者さんでは、感染症にかかりやすくなるといわれています。感染が重症化した場合には敗血症をひきおこし、死にいたる危険性もあります。

したがって、以前は抗がん剤治療中には刺身など生もの(加熱調理していない食べ物)を食べないように指導したり、人混みへの外出を制限したりすることがありました。

また、抗がん剤治療中にはペットとの接触をさけるように指導することもあります。

このような食事や行動(日常生活)の制限は、患者さんにとっては大きなストレスとなります。

実際に抗がん剤治療中に生ものを食べたり、人混みの中に出かけたりした場合には、本当に感染症のリスクが高まるのでしょうか?

今回は、抗がん剤治療中にこれらの制限が必要かどうかを評価した臨床試験を紹介します。

抗がん剤治療中に食事(生もの)、外出、ペットなどの制限は必要か?臨床試験の結果より

抗がん剤治療中の日常生活の制限については、臨床研究が海外から2つ報告されています。

一つ目は、生もの(加熱調理していない食べ物)と感染との関係を調査したランダム化比較試験です。

Randomized comparison of cooked and noncooked diets in patients undergoing remission induction therapy for acute myeloid leukemia. J Clin Oncol. 2008 Dec 10;26(35):5684-8. doi: 10.1200/JCO.2008.16.4681. Epub 2008 Oct 27.

無菌室に入院して抗がん剤による導入療法を受ける急性骨髄性白血病の患者さん153人を対象とした研究です。

白血病の導入治療では強力な抗がん剤によって好中球が減少するため、非常に感染しやすい状態になります。

これらの患者さんを、生の野菜やフルーツを含まない食事(加熱食)を摂取するグループ(78人)と、生の野菜やフルーツを含む食事(生食)を摂取するグループ(75人)のいずれかにランダムに分けました。

二つのグループにおける重症感染症(肺炎、菌血症、真菌血症)の発生率について、比較しました。

その結果、加熱食を摂取したグループの29%、生食のグループの35%に感染症をみとめ、両方のグループの間に有意な差はありませんでした(P = 0.60)

さらに、重症感染症が発症するまでの期間や生存期間についても差を認めませんでした。

以上の結果から、生の食べ物が抗がん剤治療中の患者さんの感染症を増加させることはないと結論づけています。

 

もう一つは、こちらも急性骨髄性白血病の小児患者を対象とした研究です。カナダの多施設で行われた臨床試験(AML-BFM 2004 Trial)における検討です。

Lack of Effectiveness of Neutropenic Diet and Social Restrictions as Anti-Infective Measures in Children With Acute Myeloid Leukemia: An Analysis of the AML-BFM 2004 Trial. J Clin Oncol. 2016 Aug 10;34(23):2776-83. doi: 10.1200/JCO.2016.66.7881. Epub 2016 Jun 6.

339人の患者について、それぞれの施設(病院)において指導されている日常生活での制限の程度を以下の項目についてスコア化しました。

 

食事の制限
生のシーフード、生の肉、低温殺菌していない牛乳またはチーズ、調理していない野菜、サラダ、ナッツ、テイクアウトの食べ物、および水道水

 

社会生活における(人との接触の)制限
公の場所(室内)、公の場所(野外)、友人の自宅への訪問、幼稚園・学校へ通うこと

 

ペットの制限
犬、猫、カメ、ハムスターまたはモルモット、鳥を自宅で飼うこと

 

それぞれの項目における制限スコアと、感染症に関連した合併症である不明熱(原因がわからない発熱)、菌血症、肺炎、および胃腸炎の発症率との関係を調べました。

さて、気になる結果についてですが、抗がん剤治療中、1回以上の不明熱(原因不明の発熱)が277人(82%)の患者にみられ、その他、菌血症が174人(51%)、肺炎が45人(13%)、胃腸炎が77人(23%)にみられました。

これらの副作用と上記項目の制限との関係を調査したところ、制限の程度(スコア)は、発熱、菌血症、肺炎、および胃腸炎の発生率に影響を与えないという結果でした。

すなわち、食べ物、人との接触、およびペットに関するこれらの制限によって感染症のリスクは低下しという結論でした。

 

以上2つの研究は感染のリスクが高い抗がん剤治療中の白血病の患者さんを対象としていることより、他の固形がん患者さんにも当てはまると考えられます

まとめ

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抗がん剤治療中に人混みのなかに外出したり、生ものを食べたりしたら感染症などの合併症が増えるというエビデンスはありません。

ただし生ものに関しては、もちろん健康な人でも胃腸炎(食中毒)をおこすことがありますので、あたりまえですが新鮮かどうかに注意する必要があります。

気になる場合には加熱して食べるか、野菜やフルーツなどはよく水洗いしてから食べましょう。

年末・年始にかけて、お出かけしたり、美味しいものを食べたりと、色々とイベントがあることでしょう。

おもいっきり楽しみましょう!

 


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  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

医師(産業医科大学 第1外科 講師)、医学博士。消化器外科医として診療のかたわら癌の基礎的な研究もしています。 標準治療だけでなく、代替医療や最新のがん情報についてエビデンスをまじえて紹介します。がん患者さんやご家族のかたに少しでもお役に立てれば幸いです。

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