膵癌(すい臓がん)の原因・予防・症状・診断・治療(手術・抗がん剤)についてのまとめ

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2018年1月6日、楽天は星野仙一球団副会長(元監督)が1月4日に亡くなったことを発表しました。70歳でした。

死因は膵臓がんだったそうです。

くわしい病状についての情報はありませんが、2016年7月に急性膵炎を発症したことをきっかけに膵臓がんであることがわかったそうです。

わずか1年と半年程度で亡くなったということで、あらためて膵臓がんの恐ろしさを痛感します。

膵臓がんは日本においても増加しており、年間3万人以上が膵臓がんで亡くなっています(がん死亡者数4位)。

また、膵臓がんは他のがんと比べても予後(治療成績)が悪く、5年生存率もいまだ10%未満です。

しかし一方で、膵臓がんの基礎的研究や臨床研究もすすんでおり、新たな診断法や治療法も開発されてきました。

今回は、膵臓がんの原因・予防・症状・診断・治療についての過去の記事をまとめて紹介します。

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膵臓がんの原因

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膵臓がんは、さまざまな因子が絡んで発症すると考えられており、未だはっきりとした原因は分っていません。

しかし分子レベルでの研究により、膵臓がんは遺伝子変異(遺伝子配列の異常)が多いことが明らかとなりました。

このうち、とくに下に示す4つの遺伝子に変異が集中していることがわかっています。

遺伝子名 役割 異常の頻度 主な働き
KRAS がん遺伝子 90-95% 細胞の増殖促進、細胞死の抑制など
CDKN2A/p16 がん抑制遺伝子 80-90% 細胞周期、老化の調節
TP53 (p53) がん抑制遺伝子 75% DNA損傷チェックポイント(細胞周期停止、アポトーシス導入)
SMAD4 (DPC4) がん抑制遺伝子 50-55% 細胞増殖の抑制など

これらの遺伝子異常が、前がん病変からがんに進行する間に蓄積していくことが報告されています。

このうち、KRAS(ケーラス)遺伝子の変異は膵臓がんで最も多い遺伝子異常であり、初期の前がん病変からみられ、最終的にはおよそ90~95%に確認されます。

KRAS遺伝子は「がん遺伝子」と呼ばれ、がんのスピードを速めるアクセルの役目をはたす遺伝子です。つまりKRAS遺伝子に変異がおこると、アクセルが踏みっぱなしの状態となり、車が暴走するようにがんがどんどん進行するのです。

現在、このような活性化された経路を標的とした分子標的薬の開発がすすめられています。

膵臓がんの危険因子(どんな人が膵臓がんになりやすいか?)

膵臓がんを予防するためには、「どんな人が膵臓がんになりやすいか」について理解する必要があります。

これまでの研究により、膵臓がんの危険因子(なりやすい因子)として、以下のことが報告されています。

■親や兄弟(姉妹)に膵臓がんの人がいる人
■糖尿病の人(とくに、最近発症した人)
■膵管内乳頭粘液性腫瘍(一般的にIPMNと呼ばれています)や、膵のうほうのある人
■慢性膵炎の人
■肥満体型の人
■喫煙習慣のある人
■大量飲酒の習慣のある人

これらの危険因子が複数ある場合にはとくに注意が必要です。こころあたりのある方は、お近くの消化器内科を受診されることをおすすめします。

広島県の尾道市では、2007年から「尾道方式」と呼ばれる膵臓がんの早期発見の取り組みが行われています。

これは、JA尾道総合病院と開業医の間で「糖尿病」、「肥満」、「喫煙」、「家族歴」など膵臓がんのリスクについて情報共有し、開業医での超音波検査で膵臓がんの疑いがある場合にはすぐに紹介して詳しく調べるというシステムです。

この取り組みを始めてから膵臓がんの早期発見例が増え、5年生存率が全国平均の3倍(20%)にまで上昇したとのことです。

膵臓がんの予防法

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日常生活において実践可能な膵臓がんの予防には、3つのキーワードがあります。
それは、禁煙、節酒、マグネシウムです!

禁煙

まずは膵臓がんの危険因子として喫煙があります。
喫煙による膵臓がんの発症リスクの増加は、 吸わない人に比べて 2~4倍といわれています。
したがって、まずは禁煙が膵臓がん予防に重要です

節酒

1日3ドリンク(純アルコール量30g=焼酎(度数25%)コップ1杯程度)以上摂取するアルコールの多量飲酒者では、膵臓がんのリスクが1.2倍増加したという報告があります。つまり、大量飲酒は膵臓がんの危険因子であると考えられます。

適度な飲酒(節酒)をこころがけましょう!

マグネシウム

あまり知られてはいませんが、マグネシウムの不足が膵がんの発生に関係していることが報告されています。もともとマグネシウム不足は糖尿病のリスクを高めることがわかっていました。

マグネシウムが豊富に含まれている食品は、海藻類、豆類、種実類(ナッツ)、野菜類、魚介類、未精製の穀物などです。

このうち、くるみなどのナッツは、膵臓がんだけではなく、他のがんを含めた様々な病気を予防することが報告されています。

例えば海外からの大規模コホート研究では、ナッツを食べない人に比べ、ナッツを週3回以上食べる人では、膵臓がんを含む消化器がんの死亡率が44%も低かったとのことです

膵臓がんを予防するその他の食べ物

日本での多目的コホート研究「JPHCスタディ」によると、魚の脂肪酸を多く摂取すると、膵臓がんのリスクが30%低下するとのことです(http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/3749.html)。

特に魚油(フィッシュオイル)に多く含まれるエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサペンタエン酸(DPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)といったオメガ3不飽和脂肪酸(PUFA)が膵臓がんの予防にいいようです。

実際に、日本の久山町(福岡県)の研究において、善玉脂肪酸である血液中のエイコサペンタエン酸(EPA)悪玉脂肪酸であるアラキドン酸(AA)濃度との比率が、がんの死亡率と相関するという研究結果が報告されました。

つまり、魚油やサプリメントからEPAを多くとることで膵臓がんを予防できる可能性があります。

食物繊維

海外における疫学研究の結果、食物繊維を多く摂取することは、膵臓がんのリスクを低下させることがわかりました。

膵臓がんを予防するためにはどのくらい繊維を摂ればよいのでしょうか?

結論から言えば、摂取する繊維は多ければ多いほどいい(リスクが下がる)とのことです。1日の食物繊維摂取量が10g増える毎に、膵臓がんのリスクが12%減少するということです。

膵臓がんの症状・診断

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膵臓がんを疑うおもな症状としては、お腹(多くは胃のあたり)の痛み、背中や腰の痛み、黄疸(皮膚や白目の部分が黄色くなる、皮膚のかゆみを伴うこともある)、体重減少、消化不良などがあります。

これらの症状がある場合、できるだけ早く病院(消化器内科、肝胆膵内科または消化器外科)を受診することをおすすめします。

また、とくに早期の膵臓がんでは無症状のことも多いので、40歳を過ぎたら超音波検査をふくめた健康診断(人間ドック)の定期的な受診が欠かせません。

腹部超音波(エコー)検査で膵管(膵液の流れる管)の拡張が見つかった場合、あるいは血液検査で血中膵酵素(アミラーゼ、リパーゼなど)の上昇がみられた場合、膵臓がんの早期診断の手がかりとなることもあります。

関連記事:膵臓がんを疑う症状と危険因子について:早期発見の手がかりとして
関連記事:ガイドライン解説!「膵癌の発見(早期診断)はどのようにしたらよいか?」膵癌診療ガイドラインより

膵臓がんのスクリーニング検査

現在、信頼できる膵臓がんのスクリーニング検査はありません。

膵臓がんの腫瘍マーカーとして実際に測定されているCA19-9やCEAも、(特に早期がんの)スクリーニングには向いていません。

これまでに膵臓がんを早期に診断する検査法として、ジャック・アンドレイカ氏が開発した腫瘍マーカーであるメソセリン(mesothelin)の迅速かつ安価な高感度検出法、がん探知犬、線虫の嗅覚を利用した尿によるがん診断法などが話題となりましたが、いまだ臨床応用には至っていません。

最近、マイクロアレイを用いた遺伝子発現パターンが、膵臓がんを含めた消化器系がんの診断に有用であることが日本の研究グループから報告されました。

このマイクロアレイによる「25個のがん鑑別遺伝子セット」の正診率は、がん患者で100%(37/37)、正常人で87%(13/15)という結果でした。

今後、膵臓がんの早期診断に応用されることが期待されています。

関連記事:消化器がん(胃・大腸・胆道・膵臓がん)を早期に発見する遺伝子マイクロアレイ血液検査とは?

膵臓がんの治療

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治療方針を決定するために、CT、MRI、PET、超音波内視鏡(+細胞・組織の検査)などでくわしく検査し、がんが切除可能かどうかを判断します。切除可能な膵臓がんの場合、まず切除を行います(最近では、手術の前に抗がん剤治療をおこなう術前化学療法の有効性について検討されています)。一方、切除不能膵臓がんに対しては、全身化学療法(抗がん剤)が標準治療となります。

手術

膵臓がんの標準治療には、手術による切除、化学療法(抗がん剤)、放射線治療がありますが、根治(完全に治癒すること)の可能性があるのは切除だけです。

膵臓がんの患者さんのうち、次の条件を満たす場合に外科切除の適応となります。

  • 遠隔転移(肝臓など遠くの臓器への転移)がない。
  • がんが重要な動脈(上腸間膜動脈および腹腔動脈)に浸潤していない。
  • 麻酔や手術に耐えられるだけの全身機能が保たれている(心臓や肺の機能が悪い患者さんでは手術ができないことがあります)。

一般的に、膵頭部のがんに対しては膵頭十二指腸切除術、膵体部~膵尾部のがんに対しては、膵体尾部切除術(尾側膵切除術)をおこないます。

膵頭十二指腸切除

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膵頭十二指腸切除は、膵頭部(膵臓の右側)にがんが存在する場合の標準術式です。切除する範囲は、膵頭部、十二指腸、胆管、胆のう、胃の一部です。切除後は、残った膵臓と空腸(小腸の一部)、胆管と空腸、そして胃と空腸をつなぎます。

膵体尾部切除(尾側膵切除術)

膵体尾部切除(尾側膵切除術)は、がんが膵臓の体部から尾部に存在する場合の標準的な手術です。膵臓がんでは、一般的にリンパ節の切除の意味で脾臓(ひぞう)も合併切除します(下図)。

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最近では、ステイプラという器械を使い、ホッチキスのようなもので膵臓の端をふさぎながら切ることが一般的となってきました。

これ以外にも、がんの部位によっては膵臓を全部とってしまう膵全摘術が行われることもあります。

膵臓がんの手術は比較的からだへの負担(侵襲)が大きく、また術後の合併症も多いことで知られています。

とくに、膵臓の切離した部位から膵液がもれる膵液瘻(すいえきろう)がおこりやすく(10~30%)、ときに出血や膿瘍(のうよう)などのさらに重大な合併症の原因となります。

このような合併症の発生率や手術による死亡率は、膵臓がんの手術をたくさんしている病院(ハイボリュームセンターといいます)のほうが低いということが報告されています。

したがって、膵臓がんの手術を受ける場合には、手術件数が多い病院(明確な基準はありませんが、一般的には膵臓がんの手術が年間20例以上ある病院)のほうが、より安全であると考えられます

抗がん剤治療

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膵臓がんの場合、たとえ切除手術ができたとしても、術後に再発や転移することが多いため、ほぼ全例で術後補助化学療法(抗がん剤治療)が行われます。

術後抗がん剤治療として、ゲムシタビンとS-1(ティーエスワン)という飲み薬の効果を比較した臨床試験(JASPAC-01試験)の結果によると、生存期間の中央値はゲムシタビン群で25.5ヶ月であったのに対し、S-1群ではなんと46.5ヶ月およそ4年ちかく生存したとの結果でした。

また、5年生存率はゲムシタビン群で24.4%であったの対し、S-1群は44.1%と非常に高く、死亡ハザード比は0.57(ゲムシタビンと比べ、死亡リスクが43%も減少)でした。(下図)。

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この結果を受け、現在では膵がんの術後補助療法の標準治療(第1選択)は、S-1(ティーエスワン)単独療法となりました。

切除不能膵臓がん

切除不能膵臓がんに対しては、ナブパクリタキセル(アブラキサン)+ゲムシタビン併用、FOLFIRINOX療法、S-1(ティーエスワン)単独、あるいはゲムシタビン単独の中から、進行具合や患者さんの年齢、全身状態などを考慮して選択されます。

以前は転移性膵臓がんの生存期間はわずか6ヶ月でしたが、今ではその倍の12ヶ月を超えるようになってきました

また最近、切除ができないがんに対して抗がん剤治療を行い、ステージをさげること(ダウンステージング)により、切除が可能になるという症例が増えてきました。

たとえステージ4の患者さんでも、抗がん剤治療後に治癒切除ができた場合、長期生存の可能性があります。

術前化学療法(抗がん剤治療)

最近、切除可能な膵臓がんや、重要な血管に接していて切除ができるかどうか微妙な膵臓がん(ボーダーライン膵癌といいます)に対する術前抗がん剤治療(術前化学療法またはネオアジュバント療法ともいいます)の有効性が報告されるようになってきました。

これは、手術の前に一定期間抗がん剤治療を行い、その後、手術を行うものです。

術前抗がん剤治療の予想されるメリットとして、がんの広がりが狭くなることで、がんが残らずに完全切除(いわゆる治癒切除)できるケースが増えたり、切除がきびしい膵臓がん(ボーダーライン膵癌)の場合、抗がん剤が効いてがんが小さくなったり、また重要な血管から離れれば、切除可能な状態となることが考えられています。

現在、ゲムシタビン(ジェムザール)とS-1(ティーエスワン)という2つの薬を併用したGS(ジーエス)療法による術前抗がん剤療法の安全性と有効性を調べるため、日本の多施設によるランダム化臨床試験が行われています(症例の登録は終了)。

放射線療法

膵臓がんに対する放射線治療は根治をめざすものではなく、多くの場合、症状緩和の目的で使用されます。とくに骨転移に対する照射は痛みを軽減する治療法として認められています。

また標準治療ではありませんが、一部の施設では粒子線(重粒子線や陽子線)による膵臓がん(おもに局所進行膵臓がん)の治療が試験的に行われています。

免疫療法

現在、膵臓がんに対してエビデンスがある免疫療法はありません。

一部の施設では樹状細胞療法やペプチドワクチン療法などが試験的に行われていますが、その効果については不明です。

また話題になっている免疫チェックポイント阻害剤(オプジーボやキイトルーダ)も、これまでの試験では膵臓がんには効果がないという結果でした。

しかし最近、膵臓がんに対して免疫チェックポイント阻害剤の効果を高める新たな治療戦略が報告されています。

温熱療法(ハイパーサーミア)

膵臓がんに対する温熱療法の有効性は未だ確立されていません。

しかし、これまでの臨床研究によると、局所進行切除不能膵臓がんに対し、抗がん剤治療や放射線治療(とくに両方)に温熱療法を併用した集学的治療は有効である可能性が高いとしています。

カヘキシア(がん悪液質)・サルコペニア(筋肉やせ)対策

進行した膵臓がんでは、体重減少を特徴とするカヘキシア(がん悪液質)と呼ばれる栄養・代謝異常を合併することが多く、これが直接的な死因となることがあります。

また、サルコペニアと呼ばれる筋力の低下や骨格筋量の減少(いわゆる筋肉やせ)がある患者さんでは膵臓がんの死亡率が非常に高くなることが明らかとなっています。

膵臓がんの治療を、全身状態を保ちながら継続して受けつづけるためには、このカヘキシアやサルコペニアを予防・改善するための対策が不可欠となります。

体重減少を防ぎ、筋肉量を保つためには、タンパク質を中心とした栄養補助、レジスタンス運動(筋肉トレーニング)、サプリメント(ホエイプロテイン、HMB)などが有効です。

以上、膵臓がんの予防、診断、治療に関する記事をまとめてみました。

この他にも、膵臓がん研究の最新結果などを紹介していますので、ご興味がある方はこちらをどうぞ↓


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佐藤 典宏

医師、医学博士、メディカル・サプリメント・アドバイザー。 消化器外科医として診療のかたわら癌の基礎的な研究もしています。 ☞ くわしいプロフィールはこちら ☞ 標準治療、代替医療、最新のがん情報についてエビデンスをまじえて紹介します。がん患者さんやご家族のかたに少しでもお役に立てれば幸いです。☞ 当ブログが本になりました!「ガンとわかったら読む本」マキノ出版 ☞ 
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