癌の自然退縮:大腸がん肝転移が自然治癒した1例
がんが、治療せずに自然に小さくなったり、消失する、いわゆる「自然退縮(spontaneous regression)」の症例は、世界中から多数報告されています。
その頻度はおよそ6~10万人のがん患者に1人といわれていますが、正確な統計はありません。
また、がんが自然に治癒するメカニズム(原因)も分かっていません。
このブログでも、大腸がん、肝細胞がん、乳がん、あるいは肺がん(扁平上皮がん)の自然退縮例を紹介してきました。
今回、日本から、大腸がんの肝転移が自然治癒(壊死)した症例が報告されていました。
このような症例はまれですが、再発・転移例でもがんが自然に治るという証拠でもあり、貴重な例として紹介します。
大腸がん肝転移の自然退縮:症例報告
【症例】
72歳の女性
【病歴】
進行した大腸がん(上行結腸がん)と、膵臓の膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)に対して、大腸切除(右半結腸切除)と膵頭十二指腸切除を同時に施行しました。
切除標本の検査では、大腸がんは中分化型の腺癌で、筋層まで浸潤しており、リンパ節転移も認められました(pT2N1M0)。
一方、膵臓は良性の腺腫でした。
患者の希望によって、手術後の補助化学療法(抗がん剤治療)は行いませんでした。
5ヶ月後の検査にて、腫瘍マーカー(CEA)が上昇し、また画像検査にて肝臓に2cm大の腫瘤をみとめ、大腸がんからの転移と診断しました(下図)。
最初の手術から7ヶ月後、肝臓の部分切除を行いました。
切除標本の病理(顕微鏡)検査では、腫瘍の部位は壊死(えし)におちいっており、生存しているがん細胞はみられませんでした(下図)。
追加の免疫組織染色(特殊なタンパク質を染める検査)では、上皮系(大腸がん細胞)のマーカーが陽性であり、大腸がんの肝転移が完全に壊死したと診断されました。
患者は、肝切除後6ヶ月経過し、再発の徴候はないということです。
今回の自然退縮の原因は不明ですが、膵頭十二指腸切除をうけていたことより、胆管炎(胆管と腸をつなぐことによる持続性の炎症)によって免疫力が高まった可能性があるとしています。
転移がんの自然退縮
今回、大腸がんの肝転移が、無治療で自然に退縮(壊死)した症例が報告されました。
このように、がんの転移が自然退縮する例はまれであり、報告例も少ないのが現状です。
がんの自然退縮の原因の1つとして、炎症にともなう免疫力の活性化が挙げられています。
たとえば、術後に敗血症など重症の炎症をおこすと、進行がんが自然治癒するといった例も報告されています。
今回の症例でも、重症の胆管炎のエピソードはありませんでしたが、慢性の胆管炎によって免疫力が高まった可能性もあると考えられます。
一方で、炎症はがんを進行させることもわかっていますので、がんと炎症との関係は複雑です。
いずれにせよ、このように再発・転移した進行がんでも、自然に治癒する例が存在することが示されました。
このような症例をただ単に「例外的な症例」あるいは「奇跡」として片付けてしまうのは簡単ですが、やはり科学的にアプローチすべきです。
今後、同様の症例をくわしく調べることにより、がんに対する自然治癒のメカニズムが明らかになることが期待されます。
また、自然治癒力を活性化するためにがん患者さんにできることは、日常生活において免疫力を高めることだと思います。
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