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再発卵巣がん治療の革命?新規PARP阻害剤ニラパリブが生存期間を大きく延長

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卵巣がんは初期症状が非常に乏しいため、患者の約80%がステージ3以上の進行がんの状態で発見されます。

切除可能な早期の卵巣がんの治療成績は良好ですが、再発・転移した卵巣がんの治療成績は決して満足できるものではありません

その再発卵巣がん患者さんにとって、希望の光となる可能性がある新しい抗がん剤の画期的な有効性が報告されました。

PARP阻害剤であるニラパリブが、プラチナ製剤感受性再発卵巣がんの無増悪生存期間を著しく改善するという臨床試験の結果が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO2016)ではじめて発表され、さらにニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)誌でも公開されました。

今後、ニラパリブがプラチナ製剤感受性再発卵巣がん患者にとって画期的な治療薬となる可能性が示されました。

新たな抗がん剤PARP阻害剤とは?

最近、ポリADP-リボースポリメラーゼ(PARP)阻害剤という新しい抗がん剤が実際の開発がすすみ、実際の臨床例でも使用されるようになってきました。

PARPとは、DNAの修復に関与する酵素です

DNA損傷に伴い活性化され、1本鎖DNAへのADP-リボース残基に働きかけDNAの損傷を修復します。

抗がん剤で傷つけたがん細胞のDNA修復にも関わると言われており、抗がん剤の治療耐性化にも関与すると考えられています。

PARP阻害薬とは、遺伝性乳がんや卵巣がんの原因遺伝子であるBRCA1/2の機能不全があるがん細胞に対して、特異的に細胞死を誘導することを目的に開発が進められている分子標的薬です。

つまり、BRCA1/2の変異はがんの原因になりますが、逆にBRCA1/2の変異がある患者さんはPARP阻害剤が効きやすいのです

海外ではオラパリブ、ベリパリブ、ニラパリブ、ルカパリブなどが乳がんや卵巣がんに対する治療薬として臨床試験中または承認されつつある段階です。

現在(2019年5月)、日本では、経口PARP阻害剤であるオラパリブ(リムパーザ:アストラゼネカ)が、卵巣がん(白金系抗悪性腫瘍剤感受性の再発卵巣癌における維持療法)および乳がん(がん化学療法歴のあるBRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳がん)に適応となっています。

再発卵巣がんに対する新規PARP阻害剤ニラパリブの第III相臨床試験

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再発卵巣がんに対しては、シスプラチンやカルボプラチンなどのプラチナ製剤による化学療法が行われています。

しかし、プラチナ製剤には蓄積毒性があり、長期にわたって使用できないという問題があります。

したがって、再発卵巣がんに対する新しい抗がん剤の開発、試験が行われてきました。

最近、オラパリブが、プラチナ感受性卵巣がん(とくにBRCA1/2変異例)患者の維持療法において生存期間を有意に延長することが海外の臨床試験にて示されました。

今回、経口PARP1/2阻害剤であるニラパリブ(MK-4827)の再発卵巣がんに対する臨床試験の結果が報告されました。

この臨床試験(ENGOT-OV16/NOVA試験)は、再発卵巣がん患者に対するニラパリブの有効性を評価した第III相ランダム化比較試験です。

プラチナ製剤の化学療法に反応がみられた553名の卵巣がん患者(ほとんどがステージ3以上)に対する維持療法として、ニラパリブ(300mg)を1日1回投与する群とプラセボ(偽薬)を投与する群に無作為に割り付けました。

Niraparib Maintenance Therapy in Platinum-Sensitive, Recurrent Ovarian Cancer.  2016 Dec 1;375(22):2154-2164. Epub 2016 Oct 7.

結果は以下の通りでした。

卵巣がんに対するニラパリブの有効性

■ BRCA変異陽性例

生殖細胞系BRCA変異を持つ患者(203名)の無増悪生存期間の中央値は、ニラパリブ群が21カ月、プラセボ群5.5カ月だった(ハザード比0.27、p<0.0001)

■ BRCA変異陰性例

生殖細胞系BRCA変異を持たない患者グループ(350名)では、無増悪生存期間の中央値はニラパリブ群9.3カ月に対し、プラセボ群は3.9カ月だった(ハザード比0.45、p<0.0001)

つまり、ニラパリブは(PARP阻害剤の効果がより期待できる)BRCA変異があるグループだけでなく、変異がないグループにおいても、無増悪生存率を有意に改善しました

ニラパリブの有害事象(副作用)

ニラパリブの投与を受けた患者の10%以上に、グレード3/4の有害事象が発現した。

このうち28%は血小板減少、25%は貧血、11%は好中球減少だった。こうした有害事象は用量調節で対処でき、患者は治療を続けることができた。

まとめ

以上、PARP阻害剤であるニラパリブが、プラチナ製剤感受性再発卵巣がんの無増悪生存期間を著しく改善するという結果でした。

再発卵巣がんに対する抗がん剤としは、無増悪生存期間がこれほど長く延長されたのははじめてといえるほどの画期的な抗腫瘍効果です。

またPARP阻害剤は、BRCA遺伝子の変異を調べることで、事前に薬の効果をある程度予測することができる点も重要であると考えられています。

日本では、経口PARP阻害剤であるオラパリブ(リムパーザ:アストラゼネカ)が、卵巣がん(白金系抗悪性腫瘍剤感受性の再発卵巣癌における維持療法)に適応となっています。

追記:武田薬品がニラパリブを卵巣がん治療薬として国内申請(2019年11月29日)

先日、武田薬品がニラパリブを卵巣がん治療薬として国内申請したことを発表しました。

武田薬品は11月29日、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)阻害薬・ニラパリブトシル酸塩水和物(一般名、開発コード:MK-4827)について、卵巣がんに対する治療薬として、日本で承認申請したと発表した。卵巣がんでは唯一の1日1回経口投与のPARP阻害剤となる。

一刻も早く承認され、卵巣がん患者さんに使えるようになることを願っています。


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  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

医師(産業医科大学 第1外科 講師)、医学博士。消化器外科医として診療のかたわら癌の基礎的な研究もしています。 標準治療だけでなく、代替医療や最新のがん情報についてエビデンスをまじえて紹介します。がん患者さんやご家族のかたに少しでもお役に立てれば幸いです。

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