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ゲムシタビンによる膵臓がん術後の再発防止にはナチュラルキラー(NK)細胞が関与:研究報告

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膵臓がんの治療では、たとえ完全に腫瘍を取りのぞく手術(治癒切除)ができたとしても、局所(もともとのがんがあった部位)に再発したり、遠くの臓器に転移(遠隔転移)することが多いのが問題となっています。

このため、大半の膵臓がんの患者さんは術後2年以内に亡くなっています。

現在、この術後の局所再発や遠隔転移を防止する目的で、ゲムシタビン(ジェムザール)やS-1(ティーエスワン)による補助化学療法(抗がん剤治療)が行われています。

今回、Gastroenterology(消化管病学)誌に、膵がんの新たな動物実験モデルにおいて、腫瘍切除後のゲムシタビン治療が、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)による免疫活性を高めることによって局所再発を防いでいることが報告されました。

術後の補助化学療法の効果が、局所の腫瘍免疫(とくにNK細胞)と関係していることを示した重要な研究結果です。

膵臓がんの術後補助化学療法:日本の現状

膵臓がんの場合、たとえ切除手術ができたとしても、術後に再発や転移することが多いため、ほぼ全例で術後に補助化学療法(抗がん剤治療)が行われます。

術後の抗がん剤治療としては、これまではゲムシタビン(ジェムザール)という薬が使われていました。しかし最近、膵臓がんに対する術後抗がん剤治療として、ゲムシタビンとS-1(ティーエスワン)という飲み薬の効果を比較した臨床試験(JASPAC-01試験)の結果が報告されました。

この試験では、切除手術を受けた膵臓がん患者385例を対象とし、術後にゲムシタビンを投与するグループ(190例)とS-1を投与するグループ(187例)に無作為(ランダム)に分けて治療成績(予後)を比較しました。

その結果、生存期間の中央値はゲムシタビン群で25.5ヶ月であったのに対し、S-1群ではなんと46.5ヶ月でした。つまり、S-1単独による治療が、これまで標準治療であったゲムシタビン単独による治療の効果をはるかに上まわったという驚くべき結果でした。

この結果を受け、現在日本では、膵がんの術後補助療法にはS-1がまず選択され、副作用などの関係でS-1が使用できない患者さんにはゲムシタビンが使われるようになっています(詳しくは、こちらの記事をどうぞ➞膵臓がんを生き抜くために!現時点でベストの治療法は?

しかし、この術後の補助療法についての基礎的な実験は少なく、どのようなメカニズムで効果を発揮しているのか?といったメカニズムについては分っていません。

膵がん切除マウスモデルの作成

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これまで、遺伝子改変によって膵臓のあちこちにがんが発生するマウスの発がんモデルはありましたが、膵臓の1か所に腫瘍が発生するものはありませんでした。したがって、実際の人のように、膵臓がんを切除したり、術後の再発などの研究に使えるような動物実験モデルはありませんでした。

今回、ドイツの研究チームは、in situ electroporation(局所的な電気穿孔法)という特殊な技術を用い、マウスの膵臓の1か所に遺伝子導入を行ってがんが発生するモデルを作成しました。

Administration of Gemcitabine After Pancreatic Tumor Resection in Mice Induces an Antitumor Immune Response Mediated by Natural Killer Cells. Gastroenterology. 2016 Aug;151(2):338-350.e7. doi: 10.1053/j.gastro.2016.05.004. Epub 2016 May 20.

 

このマウスの膵臓がんは、人の膵臓がんと同様、成長するとまわりの膵組織や神経に浸潤し、短期間のうちに全身に転移して死亡することが確認されました。

また、たとえ早期に手術でがんを切除しても、局所に再発したり、遠隔転移を起こして死亡することより、人の膵臓がんの研究モデルとして適していると考えられます。

膵がん切除後の補助化学療法(ゲムシタビン投与)

膵臓がんの術後治療のモデルを作成するために、このマウスの膵臓がんを切除し、術後に抗がん剤であるゲムシタビン(ジェムザール)を投与しました。

その結果、抗がん剤の効果によって局所再発(もともとのがんの部位における再発)が防止され、術後の生存期間が有意に延長しました

一方で遠隔転移に関してはゲムシタビンでは防止できず、これは実際の人における治療パターンと一致していました。

NK細胞が局所再発を防ぐ

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ゲムシタビンによる局所再発防止のメカニズムを探るために、ゲムシタビンを投与したマウスの膵臓切除部位の免疫反応に注目し、どのような免疫細胞が増えているのかを調べました。

その結果、切除断端(切除した端っこの組織)にはNK細胞が増加していました。一方、キラーT細胞(CD8 T細胞)には変化ありませんでした。つまり、再発を防ぐために最前線でがんと戦っているのはNK細胞だということです

さらに、術後のゲムシタビン投与と同時にNK細胞を除去してしまうと、生存期間の延長効果は得られませんでした。したがって、確かにNK細胞が局所再発を防止し、生存期間を延長していることが分りました。

これらの結果より、膵臓がんの術後補助化学療法が再発を防止するメカニズムの一つとして局所の免疫活性(NK細胞活性の上昇)が関与している可能性が示されました。

今後の膵臓がん再発防止に対するより効果的な治療法開発に重要な発見であると考えられます。

同時に、術後のがん再発防止に免疫力(とくにNK細胞の活性)を高めることが重要であるということを裏付ける研究結果です

こちらの記事もどうぞ➞がんを退治!免疫力を高める5つの習慣

 


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  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

医師(産業医科大学 第1外科 講師)、医学博士。消化器外科医として診療のかたわら癌の基礎的な研究もしています。 標準治療だけでなく、代替医療や最新のがん情報についてエビデンスをまじえて紹介します。がん患者さんやご家族のかたに少しでもお役に立てれば幸いです。

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