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トリプルネガティブ乳がんに対する免疫チェックポイント阻害剤キイトルーダの効果

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トリプルネガティブ乳がんは、エストロゲン、プロゲステロンという女性ホルモンの受容体と、HER2(ハーツー)という細胞の表面にあるがんを促進するタンパク質の受容体がすべて陰性の(発現していない)乳がんのことをいいます。

乳がん全体の10~15%を占めるといわれ、35歳未満のいわゆる若い女性の乳がんに多いことがわかっています。

トリプルネガティブ乳がんは、一般的にがん細胞の悪性度が高いため転移しやすく、また一旦治療の効果がみられても早期に再発しやすいとされています。

ホルモン療法やハーセプチンなどのHER2標的の分子標的薬の効果が乏しいため、治療の選択肢が限られており、通常の抗がん剤治療が中心となります。

したがって、第4のがん治療といわれる免疫療法の導入が期待されています。

本年5月2日、ジャーナル・オブ・クリニカル・オンコロジ(Journal of Clinical Oncology)オンライン版に、トリプルネガティブ乳がんを対象とした免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体)ペムブロリズマブ(キイトルーダ)の第1b相臨床試験(KEYNOTE-012試験)の結果が掲載されました。

第1相試験とはいえ、乳がんに対する免疫チェックポイント阻害剤治療としては初めての報告なので、注目が集まっています。

進行トリプルネガティブ乳がんに対するペムブロリズマブの第1b相臨床試験(KEYNOTE-012試験)

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免疫チェックポイント阻害剤はトリプルネガティブ乳がんの新たな標準治療薬になるのか?

海外から、トリプルネガティブ乳がんを対象とした抗PD-1抗体ペムブロリズマブ(キイトルーダ)の臨床試験の結果が報告されました。

Pembrolizumab in Patients With Advanced Triple-Negative Breast Cancer: Phase Ib KEYNOTE-012 Study. J Clin Oncol. 2016 Jul 20;34(21):2460-7. doi: 10.1200/JCO.2015.64.8931. Epub 2016 May 2.

KEYNOTE-012試験は、複数の固形がん(胃がん、尿路上皮がん、頭頸部がん、乳がん)を対象とした、免疫チェックポイント阻害剤ペムブロリズマブ(キイトルーダ)単独投与の安全生(および有効性)調査を目的とした、海外の多施設で行われた第1b相臨床試験です。

このうち、転移を認める進行トリプルネガティブ乳がん患者で、腫瘍細胞にPD-L1発現が認められた65人(全体の58.6%)のうち、32人を対象にキイトルーダを2週間に1度、10mg/kgにて点滴投与しました。

有効性に関する結果

治療効果の判定が可能であった27人の患者のうち、腫瘍が一定以上縮小した患者の割合(奏功率)は18.5%であった。

また、腫瘍の進行が抑えられた患者の割合(腫瘍制御率)は25.9%であった。

腫瘍の増大が抑えられた期間の中央値は1.9か月であったが、6か月時点での腫瘍制御率は24.4%であった。

生存期間の中央値は11.2か月であった。また6か月時点の生存率は66.7%、12カ月時点では43.1%であった。

安全性に関する結果

有害事象(副作用)については、主なものは軽度の関節痛、倦怠感、筋肉痛、および嘔気など今まで報告されているものと大きな違いは認めらなかった。

しかし、1名が治療に関連して播種性血管内凝固症候群(DIC: 血液凝固の異常)にて死亡した。

結果のまとめ

■ 転移を認める進行トリプルネガティブ乳がん患者32人に対して、抗PD-1抗体ペムブロリズマブ(キイトルーダ)の第1b相臨床試験(KEYNOTE-012試験)の結果が報告されました。

■ 腫瘍が一定以上縮小した患者の割合(奏功率)は18.5%で、腫瘍の進行が抑えられた患者の割合(腫瘍制御率)は25.9%でした。

■ ほとんどの患者では重大な副作用はみられなかったものの、1人の治療関連死亡が報告されています。

■ この結果を受けて現在、3週に1回、200mgを投与する第Ⅱ相臨床試験が進行中とのことです。

今後の第II相以降の臨床試験の結果(特に長期の予後)を待ちたいと思いますが、トリプルネガティブ乳がんであっても、PD-L1の発現が陽性であればキイトルーダの効果が期待できる可能性が高いと考えられます。

転移性トリプルネガティブ乳がんに対するペムブロリズマブ(キイトルーダ)と抗がん剤単剤を比較する国際第3相試験

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日本では、転移性トリプルネガティブ乳がんに対するペムブロリズマブ(キイトルーダ)単剤投与の第2相試験(KEYNOTE-086)に加え、転移性トリプルネガティブ乳がんに対するペムブロリズマブ(キイトルーダ)と抗がん剤単剤を比較する第3相試験(MK-3475-119/KEYNOTE-119)の参加募集をしています。

MK-3475-119/KEYNOTE-119試験は、転移性トリプルネガティブ乳がんの2次または3次治療として、キイトルーダ単剤と治療医が選択した化学療法(カペシタビン(ゼローダ)、エリブリン(ハラヴェン)、ゲムシタビン(ジェムザール)、ビノレルビン(ナベルビン)のいずれか)を比較する第3相臨床試験です。

以下に参加条件と除外条件を記載しておきますので、詳しい情報についてはこちら(【治験広告】トリプルネガティブ乳がん対象免疫チェックポイント阻害薬の臨床試験のご案内)にお問い合わせください。

主な参加条件等

この試験の対象となりうる方(参加条件)

  1. 18歳以上の方
  2. 転移性トリプルネガティブ乳がん(mTNBC)と診断された方
  3. 腫瘍にPD-L1タンパクが検出された方
  4. 転移性乳がんに対して1~2つ以上の薬剤治療を受けたことのある方
  5. 過去にアントラサイクリン系(アドリアシンなど)及び/またはタキサン系(ハラヴェンなど)の化学療法を受けたことのある方
  6. 最後の治療時に病状の進行が確認された方
  7. パフォーマンスステータスが0又は1の方

この試験の対象とならない方(除外条件)

  1. 治験薬投与開始前2週間以内に、化学療法、低分子分子標的薬療法、放射線療法を実施した方
  2. 過去5年以内に、進行または治療が必要な他の悪性腫瘍を有した方
  3. 過去に抗PD-1、抗PD-L1、抗PD-L2の治療を受けた方

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  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

医師(産業医科大学 第1外科 講師)、医学博士。消化器外科医として診療のかたわら癌の基礎的な研究もしています。 標準治療だけでなく、代替医療や最新のがん情報についてエビデンスをまじえて紹介します。がん患者さんやご家族のかたに少しでもお役に立てれば幸いです。

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