QOL(生活の質) 抗癌剤・分子標的薬 膵臓がん

高齢の切除不能すい臓がん患者に対する治療法選択:抗がん剤治療か支持療法(緩和医療)か?

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日本における平均寿命の延長に伴い、高齢の膵臓がん(膵癌)患者が増えてきました

手術成績の向上や新しい抗がん剤治療の導入などにより、膵臓がん患者の生存率は少しずつですが高まっています。切除不能の膵臓がんに対しても、FOLFIRINOXやゲムシタビンとナブパクリタキセルの併用療法などの強力な抗がん剤の導入により予後が改善しつつあります。

しかしながら、高齢の切除不能膵臓がん患者における治療法の選択はときに難しく、実際には活動性、全身状態(体力)、生活の質、あるいは社会的背景などによって積極的な治療が選択されないこともしばしばです。

はたして高齢の切除不能膵臓がん患者には「抗がん剤」あるいは「支持療法(積極的な治療は行わず、症状の緩和のみを行う治療)」のどちらがよいのでしょうか?

今回、日本から「高齢の切除不能膵臓がん患者に対する治療法選択の現状および治療成績」についての研究結果が報告されました。

高齢の切除不能膵臓がん患者における化学療法の有効性

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Efficacy of chemotherapy in elderly patients with unresectable pancreatic cancer: a multicenter review of 895 patients. BMC Gastroenterol. 2017 May 22;17(1):66. doi: 10.1186/s12876-017-0623-8.

日本の愛媛県の研究グループは、10か所の施設において10年間(2001~2010年)にわたり治療を行った(転移性および局所進行を含む)切除不能膵臓がん患者について、治療の選択および効果(生存期間)についてレトロスペクティブに解析しました。

患者は、WHOの定義にしたがって、65歳以上を高齢、65歳未満を非高齢(若年)患者に分類しました。

全体で1248人が登録され、最終的に895人についてデータの解析が可能でした。

結果を示します。

■ 患者全体の58%(519人)に化学療法(抗がん剤治療)が行われており、残りの42%(376人)には支持療法(緩和医療)が選択されていた。
■ 高齢の患者では、非高齢の患者と比べ、より高率に支持療法が選択されていた(47.8% vs. 25.8%, P < 0.0001)。
■ 全体では、高齢の患者の生存期間は、非高齢の患者に比べて有意に短かった(181日 vs. 263日, P = 0.0001)。
■ 抗がん剤治療を受けた患者のうち、高齢の患者と非高齢の患者で生存期間に有意な差はみられなかった(274日 vs. 333日, P = 0.09)。
■ 高齢患者のうち、化学療法を受けた人は、支持療法を受けた人よりも有意に生存期間が延長していた(274日 vs. 86日, P < 0.0001)(下図)

高齢患者の予後 化学療法vs支持療法

■ 261人(83%)の高齢患者では支持療法を選択した理由が確認され、このうち133人(51%)は抗がん剤治療の適応基準を満たしているにもかかわらず支持療法が選択されていた。また、この133人のうち78人(59%)には、がんの告知がなされていなかった
■ 高齢患者では、いつも本人の意志(好み)が考慮される訳ではなく、支持療法を選択した理由は、家族の希望(65人、49%)または患者の年齢を考えた主治医の決定(68人、51%)であった。

以上の結果より、高齢の切除不能膵臓がん患者には支持療法が選択されやすい傾向にあるが、抗がん剤治療によって生存期間の延長(生存期間の中央値はおよそ9ヶ月)が期待できるといった結果でした。

また支持療法の選択は、本人の意志というよりは、家族の意向や主治医の決定に基づいていることが多いということでした。

まとめ

高齢(65歳以上)の切除不能膵臓がん患者に対しては、抗がん剤治療によって支持療法と比べて生存期間がおよそ3倍にも延長することがわかりました。

ただし、高齢の切除不能膵臓がん患者に抗がん剤治療を選択するさいには、とくに副作用を最小限にとどめるよう用量を調節するなどの工夫が必要であると考えられます。

一方、今回の研究では生存期間が評価項目であり、生活の質についての検討はないため、化学療法と支持療法のどちらがよいか単純には比較できません。今後の検討課題であると考えられます。

また、余命いくばくもない高齢の膵臓がん患者さんに「がんの告知」をするかどうかについても議論が分かれるところです。

高齢化がすすむ日本において、今後もこのような問題点を解決していく必要があります。


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  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

医師(産業医科大学 第1外科 講師)、医学博士。消化器外科医として診療のかたわら癌の基礎的な研究もしています。 標準治療だけでなく、代替医療や最新のがん情報についてエビデンスをまじえて紹介します。がん患者さんやご家族のかたに少しでもお役に立てれば幸いです。

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