糖尿病とがんとの関係:高血糖(ブドウ糖)はがん細胞の遊走・浸潤を刺激して転移を促進する
糖尿病は、膵臓がんなどがん発症の危険因子として知られています。また、糖尿病はがんの発症リスクを高めるだけではなく、がんの進行(浸潤や転移)にも深く関わっていることが明らかとなってきました。
実際に、糖尿病や高血糖は、大腸がんや乳がんの転移や再発、および生存率の低下と関連しています。
では、なぜ糖尿病はがんを進行させるのでしょうか?
今回は、高血糖が、がん細胞の浸潤や転移をする能力(悪性度)にどのような影響を与えるかについて最近の報告をまとめました。
糖尿病(高血糖状態)が様々ながんに与える影響
1.乳がん
まずは、乳がんにおける研究です。
この研究では、乳がん細胞(MCF-7)の培養液中のグルコース(ブドウ糖)濃度を高めたところ、乳がん細胞の遊走(運動性)が高まったとしています(下図)。
他の糖類(マンニトールやフルクトース(果糖))では、遊走能の変化はみられなかったとのことです。
また、このブドウ糖による乳がん細胞の遊走能亢進には、亜鉛とその輸送に関連した分子(ZIP6とZIP10)が関与しているとのことです。
この結果より、糖尿病による高血糖状態は乳がん細胞の運動性を高め、転移を促進する可能性があると結論づけています。
2.大腸がん
続いて大腸がんにおける研究です。
この研究では、ラットの大腸がん細胞(CT-26)を用いて培養液のグルコース濃度を上昇させると、遊走能と浸潤能が亢進したと報告しています(下図)。
また、このグルコースによる悪性度の亢進にはSTAT3というタンパク質が関わっており、STAT3阻害剤を使うとブロックできることをみいだしました。
3.肺がん
肺がんにおいても同様の研究結果が報告されています。
この論文では、肺がん細胞を高グルコース濃度で培養すると、浸潤能が高まり、同時に転移の促進に関連したタンパクの発現や細胞伝達シグナル活性が上昇することを報告しています。
4.膵臓がん
最後に膵臓がんにおける実験データです。
まず研究者らは、膵臓がん細胞を高グルコース濃度で培養すると、遊走能と浸潤能が上昇することを示しました。
さらに、マウスの実験において、高血糖が持続する糖尿病マウスでは、膵臓がんの増殖と転移が促進され、生存期間が短くなることを示しました。
一方、この糖尿病によるがんの増殖・転移の亢進は、p38 MAPK阻害剤(SB203580)によって阻止することができることより、糖尿病を合併した膵臓がん患者に対する新たな治療法開発につながる発見であるとしています。
まとめ
最近の研究により、糖尿病によってもたらされる高血糖状態(高グルコース濃度)は、乳がん、大腸がん、肺がん、および膵臓がん細胞の運動性や浸潤する能力を上昇させ、悪性度を高めていることが示されました。
糖尿病(あるいは高血糖)ががんの浸潤・転移を促進することを実験的に示したエビデンスのひとつであり、また、がん患者さんにおける糖尿病治療の重要性をあらためて示す研究結果でもあります。
ちなみに、わたしはがん患者さんには「ゆるい糖質制限」をおすすめしています。
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