抗癌剤・分子標的薬 膵臓がん

膵臓がんに対するFOLFIRINOX(フォルフィリノックス)の効果は?日本での成績まとめ

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膵臓がん(膵癌)は、5年生存率10%以下という予後不良のがんであり、近年増加傾向(日本におけるがん死亡者数の第4位)にあります。

膵臓がん治療の最大の問題点は、およそ7~8割の患者さんが、遠隔転移や局所進行によって切除ができない状態で発見されることです。また、たとえ切除手術ができたとしても、しばしば再発がみられます。

これらの切除不能(転移性、局所進行)または再発性の膵臓がんに対しては、ここ最近まで治療効果(延命効果)の高い抗がん剤治療はありませんでした。

しかしながら、2011年に海外からFOLFIRINOX(フォルフィリノックス)が、進行膵臓がんに対する新しい画期的治療として紹介されました。その後、2013年から日本でも適用となり、現在多くの患者さんに使われています。

今回、日本でのFOLFIRINOX療法のこれまでの治療成績をまとめた研究論文を紹介します。

FOLFIRINOX(フォルフィリノックス)とは

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FOLFIRINOXとは、大腸がんで標準治療となっているFOLFIRI(フォルフィリ)とFOLFOX(フォルフォックス)を組み合わせた新しいレジメンで、オキサリプラチン、イリノテカン塩酸塩、フルオロウラシル、レボホリナートの4剤を併用する治療法です。

2011年に報告された、ヨーロッパにおける切除不能(転移性)膵臓がんに対するゲムシタビン(ジェムザール)単独との比較試験(N Engl J Med. 2011 May 12;364(19):1817-25)の結果では、

●全生存期間(中央値):11.1ヶ月(ゲムシタビン群が6.8ヶ月)

●無増悪生存期間(中央値):6.4ヶ月(ゲムシタビン群が3.3ヶ月)

●奏功率:31.6%(ゲムシタビン群が9.4%)

と、いずれもゲムシタビン単独群を大きく上まわっていました。

このため、欧米および日本においては、切除不能膵臓がんに対して、おもにファーストライン(初回治療)としてFOLFIRINOX(あるいは、日本では改変したmFOLFIRINOX)使われるようになりました。

日本におけるFOLFIRINOX療法の治療成績まとめ:399人における検討

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今回、日本の研究グループは、日本人におけるFOLFIRINOX療法の有効性を評価するために、これまでの臨床データを解析しました。

Nationwide Multicenter Observational Study of FOLFIRINOX Chemotherapy in 399 Patients With Unresectable or Recurrent Pancreatic Cancer in Japan. Pancreas. 2018 May/Jun;47(5):631-636. doi: 10.1097/MPA.0000000000001049.

国内全27施設において、切除不能または再発性膵臓がんに対してFOLFIRINOX療法が施行された日本人患者399例を対象としました。

一部の患者は、以前の日本での第II相臨床試験の適応基準を外れていました。

結果を示します。

● 初回の投与量は、270人(68%)において減量されていました。

● おもなグレード3以上の有害事象(副作用)は、好中球減少(64%)、食欲不振(14%)、および発熱性好中球減少(13%)でした。

● 致死的な有害事象が5人(うち4人が日本での第II相試験の基準外)にみられました。

● 全体の全生存期間(中央値)は10.8ヶ月でした。

● 全体の無増悪生存期間(中央値)は4.5ヶ月でした。

● 全体の奏功率は21%病勢コントロール率は61%でした。

転移性、局所進行、および再発性に対する全生存期間(中央値)は、それぞれ11.1%、18.5%、4.5%でした(下図)。

日本FOLFIRINOX全生存率

以上の結果より、日本人患者においても、切除不能膵臓がんに対するFOLFIRINOX療法は安全性において許容でき、かつ有効(海外での臨床試験とほぼ同等)であると結論づけています。

とくに、局所進行膵がんに限っては、全生存期間(中央値)が18.5ヶ月(およそ1年半)という良好な成績でした。

一方で、有害事象は他のレジメンと比較すると多く、また一部に治療関連死もみられたことより、FOLFIRINOXの適応患者は慎重に選択すべきであるとしています。

まとめ

日本人の切除不能または再発性膵臓がん患者399人に対するFOLFIRINOX療法の成績は全生存期間(中央値)10.8ヶ月、無増悪生存期間(中央値)4.5ヶ月、奏功率は21%、病勢コントロール率は61%でした。

私の経験では、FOLFIRINOXは確かに効果は高いのですが、(たとえ減量しても)有害事象のために長期にわたって継続できないことが多いです。

現時点では、比較的若くて全身状態が保たれている患者さんにはFOLFIRINOXが、やや高齢の患者さんにはゲムシタビン+ナブパクリタキセル(アブラキサン)が適していると思います。

今後、さらに症例を蓄積し、FOLFIRINOXをふくめ、それぞれの治療法の選択基準を確立し、適応をしぼっていく必要があると考えられます。

 


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  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

医師(産業医科大学 第1外科 講師)、医学博士。消化器外科医として診療のかたわら癌の基礎的な研究もしています。 標準治療だけでなく、代替医療や最新のがん情報についてエビデンスをまじえて紹介します。がん患者さんやご家族のかたに少しでもお役に立てれば幸いです。

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