免疫チェックポイント阻害薬はがん患者全員に効く夢の薬か?医師が解説

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Q:免疫チェックポイント阻害薬は、がん患者全員に効果があるのか?

A:免疫チェックポイント阻害薬は、10~30%のがん患者に効果が期待される。

2018年10月1日、京都大高等研究院の本庶佑(ほんじょ・たすく)特別教授は、免疫チェックポイント阻害剤の開発につながる研究が評価され、ノーベル医学生理学賞を受賞しました。

これを機に、新たな免疫治療薬、オプジーボに再び注目が集まっています。

オプジーボやキイトルーダといった免疫チェックポイント阻害薬は、今までの抗がん剤が効かなくなった患者さんや、がんが再発した患者さんにも効果がみられる場合もあり、「夢のくすり」とも呼ばれています。

しかし、この免疫チェックポイント阻害剤は、全員に効くわけではありません。また、免疫関係の予期せぬ副作用や、医療費の高騰などの問題も抱えています。

では、一体どのくらいのがん患者さんに効果が期待できるのでしょうか?

また、どんな人(がん)が免疫チェックポイント阻害剤が効きやすいのでしょうか?

今回、これまでの記事に新たな情報を追加してまとめてみました。

免疫チェックポイント阻害剤とは?

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まずは免疫チェックポイントについて説明します。

人間には、本来がん細胞を排除する免疫監視システムが備わっています。

まずは、樹状細胞などの抗原提示(こうげんていじ)細胞と呼ばれる見張り役が、がん細胞の特徴をヘルパーT細胞に知らせ、ヘルパーT細胞はキラーT細胞という兵隊に指示を出してがん細胞を攻撃させます。

一方で、この免疫の防衛システムにも暴走しないようにブレーキがあります。このブレーキのひとつが、T細胞の表面にあるPD-1(programmed cell death-1)と呼ばれる受容体(つまりカギ穴)です。

がん細胞は、たくみに攻撃から逃れるために、PD-L1またはPD-L2というカギをT細胞のPD-1(カギ穴)に結合させて、ブレーキをかけてしまうのです。

このPD-1(カギ穴)やPD-L1(カギ)を標的にした薬が、抗PD-1抗体のニボルマブ(オプジーボ)、ペンブロリズマブ(キートルーダ)、抗PD-L1抗体のアテゾリズマブ(テセントリク)などの免疫チェックポイント阻害剤なのです。

現在(2018年9月)日本では、ニボルマブ(オプジーボ)は、悪性黒色腫(皮膚がん)、非小細胞肺がん、腎細胞がん、ホジキンリンパ腫、頭頸部がん、胃がん、悪性胸膜中皮腫に承認を受けています。

ペンブロリズマブ(キイトルーダ)は、悪性黒色腫、非小細胞肺がん、ホジキンリンパ腫、および尿路上皮がんに承認されています。

その他、アテゾリズマブ(テセントリク)非小細胞性肺がんに、デュルバルマブ(イミフィンジ)非小細胞肺がんに、アベルマブ(バベンチオ)メルケル細胞がんに承認されています。

最新の情報については、以下のサイト(記事)がたいへん参考になります。

免疫チェックポイント阻害薬はどのくらい効果があるのか?副作用は?

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一般的に、免疫チェックポイント阻害剤がよく効くのは、がんの種類にもよりますが、全体の症例の10~30%(およそ20%)といわれています。

病気が進行しない状態(安定:SD)までをふくむと、約70%に効果があるとされ、残りの約30%には効果がないことが分っています。

しかし、中には長期にわたって効果が持続し、生存できている症例もあります。

一方で、副作用も少なからず報告されています。

特に、免疫関連副作用として、甲状腺機能低下、間質性肺疾患、腸炎(下痢)、糖尿病などの事例が報告されています

これまでのオプジーボの有効性と安全性についての臨床研究をまとめた論文を紹介します。

オプジーボの27の臨床試験を対象としたメタアナリシス

中国の研究者らは、様々ながんに対する27のオプジーボを用いた臨床試験をメタアナリシス(複数の研究の結果を統合し、より高い見地から分析すること)にて解析し、インターナショナル・ジャーナル・オブ・キャンサー(International Journal of Cancer)のオンライン版(2016年11月4日)に報告しました。

Safety and efficacy of nivolumab in the treatment of cancers: A meta-analysis of 27 prospective clinical trials. Int J Cancer. 2017 Feb 15;140(4):948-958. doi: 10.1002/ijc.30501. Epub 2016 Nov 16

この27の臨床試験は、2010~2016年間でに行われたもので、全患者数は5551人でした。このうち、3605人がニボルマブの治療768人が抗がん剤治療を受けていました。

治療の対象となったがんの種類には、肺がん、メラノーマ、腎細胞がん、卵巣がん、ホジキンリンパ腫、膠芽細胞腫(グリオブラストーマ)、肝細胞がん、食道がん、および胃がん(または食道胃接合部がん)が含まれていました。

オプジーボの有効性

オプジーボの総合分析した客観的奏功率(腫瘍が完全に消失した完全奏効(CR)と30%以上小さくなった部分奏効(PR)の合計)は26%6ヶ月の時点での無増悪生存率(腫瘍が進行しないで生存している患者の割合)は40%1年時全生存率52%でした。

コントロールの化学療法(抗がん剤)治療に対するニボルマブの有効性のオッズ比(ここでは効果がどれだけ高いか)は、奏功率が2.77倍、6ヶ月の時点での無増悪生存率は1.97倍、1年時の全生存率は1.87倍という結果でした。

オプジーボの安全性

オプジーボのすべての有害事象(副作用)の発生率は65%であり、このうち重症(グレード3)のものは12%でした。

オプジーボに関連した死亡率は0.25%でした。

最も頻度の高い有害事象(すべてのグレード)は、倦怠感(25.1%)、発疹(13.0%)、かゆみ(12.5%)、下痢(12.1%)、嘔気(11.8%)および無力感(10.4%)でした。

また、最も頻度の高いグレード3以上の有害事象は低リン血症(わずかに2.3%)とリンパ球減少(わずかに2.1%)でした。

免疫チェックポイント阻害剤が効くがん、効かないがん

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どのようながんに免疫チェックポイント阻害剤が効くのでしょうか?

これまでの研究により、免疫チェックポイント阻害剤の効果を予測するいくつかのバイオマーカーが報告されています。

1.PD-L1(またはPD-L2)発現

がんの中には、PD-L1(カギ)の発現が陽性のものと、陰性のものがあります。つまり、免疫細胞にブレーキをかけるためのカギをたくさん持っているがんと、持っていないがんがあるということです。

免疫チェックポイントのメカニズムを考えると、PD-L1(カギ)を発現しているがんでは、しっかりと免疫のブレーキがかかっており、抗PD-1抗体によるブレーキの解除がより効果的であると予想されます

実際、これまでの臨床試験で、PD-L1の発現が陽性のがんでは、ニボルマブやペンブロリズマブの効果が高いことが示されています。

たとえば、肺がん患者を対象とした臨床試験では、ニボルマブはPD-L1が陽性の患者25人のうち9人(36%)に効果(客観的奏功)を認めたのに対し、PD-L1が陰性の17人には効果がみられませんでした。

同様に、PD-L2の発現が高い腫瘍をもつ患者には、免疫チェックポイント阻害剤の効果が高いことも報告されています。

したがって、がんにおけるPD-L1やPD-L2の発現は、免疫チェックポイント阻害剤の効果を予測するバイオマーカーとして臨床的に役に立つ可能性があります

実際に、非小細胞肺がんの初回治療でペンブロリズマブを使用する場合、がん細胞のPD-L1の発現が高い(50%以上)ことが適応条件になっています。

しかし一方で、PD-L1またはPD-L2の検査方法や陽性・陰性の判定基準などについてはさらなる検証が必要だといわれています。

2.マイクロサテライト不安定性(ミスマッチ修復機構欠陥)

正常の細胞では、DNAがコピーされる時に塩基配列の間違い(ミスマッチ)を修復する機能があります。これをミスマッチ修復機構(mismatch repair: MMR)と呼びます。

一部のがんでは、このミスマッチ修復機構が欠損しており、無数のDNAの複製エラー(遺伝子異常)が蓄積する原因となっています。このようながんの特徴を、ミスマッチ修復機構(MMR)欠損、あるいはマイクロサテライト不安定性とも呼びます。

2015年に報告された臨床試験では、ミスマッチ修復機構の欠損があるがんに対しては、ペンブロリズマブの治療効果が非常に高かったという驚くべき結果を示し、注目を集めました。

さらに、ミスマッチ修復機構(MMR)欠損が確認された12の異なるがん(大腸がん、子宮内膜がん、胃・食道がん、膵臓がん、胆道がんなど)患者86人に対してペンブロリズマブを投与したより大規模な臨床試験では、客観的奏功率は53%であり、このうち完全寛解(治療効果判定のターゲットとなる腫瘍の消失)が21%(18人)にも達しました。

したがって、治療の前にマイクロサテライト不安定性を調べ、これらの患者さんに限定すれば、より効果の高い免疫チェックポイント阻害剤の治療が可能になると期待されています。

2018年3月には、「局所進行性または転移性の高頻度マイクロサテライト不安定性がん」に対するキイトルーダの適応拡大を申請しました。

がん種を問わず共通のバイオマーカーで承認されたがん治療薬は国内にはなく、承認されればキイトルーダが初めてとなります。

3.腸内環境

ごく最近、サイエンス誌に、免疫チェックポイント阻害剤と腸内環境(腸内細菌叢)の関係を示す2つの論文が発表されました。

研究によると、免疫チェックポイント阻害剤が効いた人と、効かなかった人とのあいだに、腸内細菌叢のパターン(細菌の種類や多様性)に差があるということがわかりました。

また、免疫チェックポイント阻害剤の治療と同時に抗生剤の投与を受けていた患者では、生存率が有意に低下していたということです。抗生剤によって変化した腸内環境によって、免疫チェックポイント阻害剤の効果が低下したと考えられます。

さらに、マウスの実験では、免疫チェックポイント阻害剤が効いた人の糞便や特定の菌を腸内に移植したところ、免疫チェックポイント阻害剤の効果が高まったとのことです。

これらの結果より、免疫チェックポイント阻害剤の効果は、腸内環境によって左右されるということがわかりました。

つまり、免疫チェックポイント阻害剤と同時に、腸内環境を整える治療(たとえば糞便移植)を併用することで予後を改善できる可能性があります

4.その他

この他にも、遺伝子変異(異常)数が多いがんでは、少ないがんに比べて免疫チェックポイント阻害剤の効果が高いという報告もあります。

また現在、次世代シークエンサーによる遺伝子解析などにより、免疫チェックポイント阻害剤の効果が高い、あるいは低いがんに認められる遺伝子変異(異常)が徐々に明らかとなっています。

将来、免疫チェックポイント阻害剤の効果を予測するより簡単で正確なバイオマーカーが開発され、臨床応用されることが期待されます。 

まとめ

■ 免疫チェックポイント阻害剤は、10~30%のがん患者に効果が期待される。

■ 免疫チェックポイント阻害剤の効果は、腫瘍のPD-L1(またはPD-L2)の発現マイクロサテライト不安定性、および患者さんの腸内環境などによって影響をうける。

 


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