胃がんの最大の原因 ピロリ菌感染について医師が解説:検査と除菌治療で大丈夫?
最近、中尾翔太さん(享年22歳)、山本KID徳郁さん(享年41歳)と、若くして「胃がん」で亡くなった有名人の報道が相次ぎました。
胃がんは全体的には高齢者に多い病気ですが、50歳未満の若い人にも発症します。
とくに予後(治療成績)の悪い「スキルス胃がん」は、若い人に多いと報告されています。
胃がんは早期に診断できれば、手術などによって完治する可能性が高いがんです。
ただ、初期には症状がないことが多いため、進行して見つかる場合もあるのです。
そこで、胃がんの原因を知り、予防することが大切になります。
今回は、胃がんの最大の原因であるヘリコバクターピロリ(ピロリ菌)の感染について、検査や除菌治療について解説します。
ぜひ、皆さんも参考にしていただき、胃がんを未然に防いでもらいたいと思います。
ヘリコバクターピロリとは?
大塚製薬ウェブサイトより
ヘリコバクターピロリ(ピロリ菌)は、胃の中に生息する細菌です。
胃の中は強い酸性なので、細菌は生息できないと考えられていましたが、ピロリ菌はウレアーゼという酵素をだしてアルカリ性のアンモニアを作り出し、胃酸を中和することによって、過酷な胃の中でも生きていくことができるのです。
もともとピロリ菌は、1983年にオーストラリアの研究者らによって、胃炎や胃潰瘍などの原因となる菌として報告されました。
その後の研究により、胃がんとピロリ菌との関係に注目が集まるようになりました。
そして、1994年、WHO (世界保健機構) の外部組織であるIARC (国際がん研究機関) は、「ピロリ菌は胃がんの原因である」と、その因果関係を報告しました。
胃がんの原因はピロリ菌?
多くの研究によって、胃がんの最大の原因はピロリ菌であることがわかってきました。
その根拠は、おもに以下のエビデンス(医学的根拠)に基づいています。
日本では、1500人以上を対象として、ピロリ菌感染と胃がん発生率との関係について平均およそ8年間追跡調査した研究が報告されています(N Engl J Med. 2001 Sep 13;345(11):784-9.)。
結果は、ピロリ菌陰性であった280人には胃がんはまったく発生しませんでしたが、ピロリ菌陽性であった1246人のうち36人(約3%)に胃がんが発生しました(下図)。
N Engl J Med 345:784-9, 2001より改変
では、どうしてピロリ菌が感染すると胃がんになるのでしょうか?
ピロリ菌は、胃粘膜を傷つけるアンモニア、活性酸素、および様々な毒素をつくり出すことがわかっています。
したがってピロリ菌に感染すると、胃に慢性的な炎症がおこります。
炎症によって、胃の粘膜が破壊されたり、修復されたりを繰り返す過程で、遺伝子に傷のついたがん細胞が生まれやすくなると考えられています。
とくに、胃の粘膜が薄くなる萎縮性胃炎という状態になると、胃がんになりやすいことがわかっています。
ただ、ピロリ菌に感染していても、全員が胃がんを発症するわけではありません。統計データによると、ピロリ菌感染者のうち胃がんになるのは、およそ10%程度とされています。
ピロリ菌はどうして感染するの?
ピロリ菌の感染経路はまだはっきり解明されていませんが、幼少時に汚染された水(井戸水など)や食べ物、あるいは唾液から感染する可能性が指摘されています。
日本は、先進国の中でもピロリ菌の感染率が特に高いことで知られています。
しかし、衛生環境の改善などにより、ピロリ菌感染率は減少傾向にあります。
実際に、1950年以前に生まれた人ではピロリ菌陽性率がおよそ60%以上であるのに対し、1960年生まれで約50%、1970年生まれで約35%、1980年生まれでは約25%と推測されており、若くなるほど感染率は低くなっています(Sci Rep. 2017 Nov 14;7(1):15491. doi: 10.1038/s41598-017-15490-7.)。
Sci Rep 7(1): 15491. 2017から改変
今後は、ますますピロリ菌感染率は下がってくるでしょう。
とはいえ、胃がんの最大の原因である以上、ピロリ菌の検査と、陽性者における除菌治療は胃がん予防のうえでとても重要です。
最近では、胃がん予防のために中学生にピロリ菌の検査を行う自治体も出てきました。
まずはピロリ菌の検査を受けましょう
まずは、お近くの医療機関(内視鏡検査ができる消化器内科が望ましい)でピロリ菌の検査を受けましょう。
ピロリ菌が感染しているかどうかを調べる検査には、内視鏡検査で直接胃の粘膜を採取する方法以外にも、簡単な尿素呼気試験法(薬を飲んで吐いた息で検査)や血液、尿、便の抗体・抗原検査などがあります。
くわしくは医師に相談しましょう。
最近では自宅で簡単に検査できるピロリ菌検査キットも販売されていますので、忙しい人でも病院に行かずにピロリ菌感染の有無を調べることができます。
ただ、結果の解釈については、やはり専門医の説明があった方がよいと思いますので、できれば医療機関で受けましょう。
ピロリ菌が陽性だった場合
もし、ピロリ菌が陽性だった場合、必ず除菌治療を受けましょう。
これまでの研究データによると、ピロリ菌を除菌することにより、胃がんにかかるリスクをおよそ3分の1から半分減らせることが報告されています。
除菌治療では、胃酸の分泌を抑える薬(プロトンポンプ阻害剤)1種類と、抗菌薬2種類の合計3剤を、1日2回、7日間服用します。
4週間以上経過してから、再度ピロリ菌の検査(除菌できたかどうかの検査)を受けます。
1回目の除菌療法がうまくいかなかった場合、抗菌剤の種類を変えて、再び除菌療法を行います(二次除菌療法)。
一次除菌療法で除菌ができなかった場合でも、二次除菌療法をきちんと行えば、ほとんどの人で除菌が成功すると報告されています。
ピロリ菌が陰性だったら?
たとえピロリ菌検査が陰性だったとしても、安心はできません。
検査自体の感度が100%ではないため、誤って陰性にでることもあります。このため、一つの検査が陰性であった場合、違う種類の検査を行って確認する医療施設もあります。
また、過去にピロリ菌の感染があり、たまたま抗菌剤を飲んで偶然に除菌されたり、胃粘膜の萎縮がすすんで自然に消えたりする可能性もあります。
このような場合には、ピロリ菌が陰性であっても、やはり胃がんになるリスクがあります(とくに自然消失の場合にはリスクが高いと言われています)。
したがって、ピロリ菌検査が陰性であったとしても、一度は胃カメラ検査を受けて胃炎のチェックをしておくことをおすすめします。
ピロリ菌を除菌したら大丈夫?
「ピロリ菌を除菌したら、もう胃がんにはならない」と思っている人がいるかもしれませんが、そうではありません。
たとえピロリ菌を除菌しても、胃がんになる可能性は残ります。
とくに、除菌をした時点で、ある程度胃炎がすすんでいた人は、胃がんのリスクが高いといわれています。
ピロリ菌を除菌しても安心せず、定期的に胃カメラ検査を受けてください。
まとめ
・胃がんの最大の原因はピロリ菌の感染です。
・ピロリ菌感染者は若い世代では減っています。
・ピロリ菌を除菌することで、胃がんのリスクを減らすことができます。
・除菌後も胃がんのリスクはゼロにはならないため、定期検診は必要です。
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