膵臓がん手術後のFOLFIRINOX(フォルフィリノックス)療法で生存期間が50ヶ月超え
膵臓がん(膵癌)は、切除手術だけでは再発するリスクが非常に高いため、これを予防するために術後の補助化学療法(追加の抗がん剤治療)を行うことが一般的です。
欧米では、術後にゲムシタビン(ジェムザール)が長く使われてきましたが、どの抗がん剤がベストか?については、常に臨床研究が行われています。
日本における術後補助化学療法のランダム化比較試験(JASPAC 01試験)では、生存期間の中央値はゲムシタビン(ジェムザール)群で25.5ヶ月であったのに対し、S-1(ティーエスワン)群では46.5ヶ月とおよそ4年ちかく生存したとの結果でした。
この結果を受け、国内では膵がんの術後補助療法の標準治療(第1選択)は、S-1単独治療となりました。
一方海外では、数種類の抗がん剤を組み合わせたFOLFIRINOX(フォルフィリノックス)療法が、転移性の膵臓がんに非常に有効であることが報告されました。
そこで、「FOLFIRINOX療法は、術後補助化学療法としても有効か?」という試験が行われました。
今回、切除可能膵臓がんの術後に、FOLFIRINOXとゲムシタビン単独を比較するランダム化比較試験の結果がニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン誌に報告されました。
本記事のポイント: 膵臓がんの切除手術後の補助化学療法(抗がん剤)としてジェムザールを使ったグループの生存期間(中央値)が35.0ヶ月であったのに対し、FOLFIRINOXを使ったグループでは54.4ヶ月(およそ4年半)と、かつてないほどの長期生存が得られました。
FOLFIRINOX(フォルフィリノックス)療法とは
FOLFIRINOX(フォルフィリノックス)とは、大腸がんで標準治療となっているFOLFIRI(フォルフィリ)とFOLFOX(フォルフォックス)を組み合わせた新しいレジメンで、オキサリプラチン、イリノテカン塩酸塩、5-FU(フルオロウラシル)、レボホリナート(ロイコボリン)の4剤を併用する治療法です。
転移性膵臓がんに対するFOLFIRINOXの成績
2011年に報告された、ヨーロッパにおける切除不能(転移性)膵臓がんに対するゲムシタビン(ジェムザール)単独との比較試験(N Engl J Med. 2011 May 12;364(19):1817-25)の結果では、
●全生存期間(中央値):11.1ヶ月(ゲムシタビン群が6.8ヶ月)
●無増悪生存期間(中央値):6.4ヶ月(ゲムシタビン群が3.3ヶ月)
●奏功率:31.6%(ゲムシタビン群が9.4%)
と、いずれもゲムシタビン単独群を大きく上まわっていました。
この結果をうけ、欧米においては、切除不能膵臓がんに対して、おもにファーストライン(初回治療)としてFOLFIRINOXが使われるようになりました。
日本におけるFOLFIRINOXの成績
日本においても、切除不能または再発膵臓がんに対するFOLFIRINOXの有効性が確認されており、およそ400人を対象とした治療成績は、全生存期間(中央値)10.8ヶ月、無増悪生存期間(中央値)4.5ヶ月、奏功率は21%、病勢コントロール率は61%でした。
一方で、FOLFIRINOXは骨髄抑制(好中球減少など)など副作用が非常に多いことが問題となっています。
そこで、特に日本では、FOLFIRINOXの投与方法を変更(一部の投与薬剤を削除および減量)した、モディファイド・フォルフィリノックス(mFOLFIRINOX)が行われています。
術後補助化学療法としてのFOLFIRINOX
今回、膵臓がん切除後の補助化学療法として、mFORFIRINOX(5-FUの急速静注を省略)またはゲムシタビン単独を比較したランダム化試験の結果が報告されました。
FOLFIRINOX or Gemcitabine as Adjuvant Therapy for Pancreatic Cancer. N Engl J Med 2018; 379:2395-2406; DOI: 10.1056/NEJMoa1809775
切除手術を受けた膵臓がん患者493人を、術後24週(およそ6ヶ月)間、mFOLFIRINOX(247人)またはゲムシタビン単独(246人)治療のどちらかを受けるグループにランダムに割り付けました。
プライマリーエンドポイントとして無病生存期間(disease-free survival)に加え、全生存期間(overall survival)および安全性(safety)などを評価しました。
結果を示します。
■ ゲムシタビン群の無病生存期間(中央値)が12.8ヶ月であったのに対して、mFOLFIRINOX群は21.6ヶ月と、有意に延長していました。
■ ゲムシタビン群の全生存期間(中央値)が35.0ヶ月であったのに対して、mFOLFIRINOX群は54.4ヶ月と、有意に延長していました(死亡リスクの36%低下)。
■ 3年全生存率はゲムシタビン群では48.6%、mFOLFIRINOX群では63.4%でした。
■ 一方、グレード3または4の有害事象(副作用)は、ゲムシタビン群の52.9%、mFOLFIRINOX群の75.9%にみられました。
結論
以上の結果より、「膵臓がんに対する術後補助化学療法としてのmFOLFIRINOXは、ゲムシタビン単独と比較すると、副作用は多いものの、有意に生存期間を延長する」と結論づけています。
まとめ
今回、海外から、膵臓がん術後の補助化学療法として、mFOLFIRINOXの生存期間延長効果が報告されました。
単純に比較はできませんが、日本のJASPAC 01試験で得られたS-1(ティーエスワン)による46.5ヶ月という生存期間(中央値)を超え、54.4ヶ月(およそ4年半)という、かつてない長期生存に到達したことが示されました。
副作用が多いため対象となる患者さんを厳密に選ぶ必要がありますが、今後、日本でも術後補助化学療法としてmFOLFIRINOXの効果が検証されれば、選択肢のひとつになる可能性があります。
術後補助療法が進歩し、膵臓がんの生存期間がますます延長することが期待されます。