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局所進行膵臓がんに対する重粒子線(放射線)+抗がん剤(ゲムシタビン)治療の効果は?

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膵臓がんは症状がでにくいことより、多くの患者さんでは進行した状態で発見されます。

切除が困難な局所進行膵臓がんの場合、一般的には抗がん剤や放射線(X線)治療が行われていますが、治療に抵抗性を示す(治療が効かなくなる)ことが多いのが問題となっています。このような進行した膵臓がんの患者さんの生存期間を延長するためには、新しい治療法が必要です。

最近、先進医療として粒子線(重粒子線や陽子線)による新たな放射線治療が、膵臓がんを含めたさまざまながんに対して実施されています。

今回、日本の多施設の研究チームから、局所進行膵臓がんに対して、重粒子線と抗がん剤(ゲムシタビン)の併用治療の結果が報告されました。

局所進行膵臓がんに対する重粒子線+ゲムシタビン治療の成績

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現在、手術ができない局所進行膵臓がんに対しては、化学療法あるいは化学放射線療法が行われますが、治療成績は1年生存率40%、生存期間中央値10ヶ月程度と満足すべき結果ではありません。

このような局所進行膵臓がんに対し、先進医療として重粒子線治療が試みられており、その有効性が期待されています。

このたび、放射線医学総合研究所 重粒子医科学センター(千葉)、九州国際重粒子線がん治療センター(佐賀)、九州大学放射線科(福岡)などからなる研究チームは、局所進行膵臓がんに対する炭素イオン線(重粒子線)と、膵臓がんで一般的に用いられている抗がん剤ゲムシタビンとの併用治療の成績を報告しました。

Carbon Ion Radiation Therapy With Concurrent Gemcitabine for Patients With Locally Advanced Pancreatic CancerInt J Radiat Oncol Biol Phys. 2016 May 1;95(1):498-504.

対象は、切除不能の局所進行膵臓がんの患者76名で、ゲムシタビン(ジェムザール)と重粒子線を、ともに安全性(副作用)を確認しながら用量を増加する方法で治療を行いました。

その結果、以下の成績でした。

安全性に関しては、用量を制限する副作用(放射線の量や抗がん剤が増やせなくなる副作用)は3名(感染症と好中球減少)にみられました。

治療効果については、2年後の時点での無増悪率(がんの進行が抑えられた割合)は83%であったとのことです。

また、2年生存率は、全患者では35%であり、高い放射線用量が照射できたステージ3の患者に限定すれば48%でした。

この結果から、重粒子線+抗がん剤の併用は比較的安全に施行でき、切除が困難な局所進行膵臓がんに対して効果的であるとしています。

がんに対する粒子線治療の適応

粒子線治療には、水素の原子核(陽子)を利用する陽子線治療と、炭素を利用する重粒子線治療があります。通常のX線と比べ、がん病変により多くのエネルギーを照射しつつ、周囲の正常組織への影響を軽くすることが可能な最先端の放射線治療です。

しかし、一部のがん(小児がんや骨軟部腫瘍)を除くほとんどのがんで保険が適応されないため、限られた施設において先進医療として実施されています

重粒子線治療の効果が期待されるおもな適応部位は、脳腫瘍、中枢神経腫瘍、頭頸部がん、食道がん、肺がん、肝臓がん、膵臓がん、子宮がん、直腸がん(術後再発)、前立腺がん、骨・軟部腫瘍などがあります。

このうち膵臓がんに対しては、重粒子線や陽子線が非常に有効であった症例などの報告もあり、特に切除ができない患者さんではその治療効果が期待されています。しかし、これまではまとまった治療成績の報告が少ないのが現状でした。

今回、切除不能の局所進行膵臓がんの患者76名に対する重粒子線+抗がん剤(ゲムシタビン)併用治療の成績が報告されました。まだ長期成績(5年生存率など)については不明ですが、(少なくとも短期的な成績では)期待がもてる治療の一つであると考えられます

さらなる研究結果の報告を待ちたいと思います。

 


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  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

医師(産業医科大学 第1外科 講師)、医学博士。消化器外科医として診療のかたわら癌の基礎的な研究もしています。 標準治療だけでなく、代替医療や最新のがん情報についてエビデンスをまじえて紹介します。がん患者さんやご家族のかたに少しでもお役に立てれば幸いです。

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