筋肉量の低下(サルコペニア)があると免疫チェックポイント阻害剤の反応が弱まる?
オプジーボやキイトルーダといった免疫チェックポイント阻害剤の適応が拡大し、肺がんをはじめ、さまざまながんの治療薬として普及しつつあります。
同時に、免疫チェックポイント阻害剤の効果が期待できるがんのタイプや患者さんの要因についての研究もすすんでいます。
つまり、「どんな患者さんに効くのか?」ということです。
これまでの研究によると、PD-L1(またはPD-L2)の発現、マイクロサテライト不安定性(ミスマッチ修復機構欠陥)、腸内環境などによって免疫チェックポイント阻害薬の効果が影響されることがわかっています。
今回新たに、肺がん患者を対象とした日本からの研究により、サルコペニア(いわゆる「筋肉やせ」のこと)があると、免疫チェックポイント阻害剤が効きにくくなる(反応が弱まる)という結果が報告されました。
サルコペニアとは?
サルコペニアとは、「筋肉量の低下に加えて筋力の低下または身体能力の低下のいずれかがある状態」です。
簡単に言うと「筋肉やせ」で、「手足の筋肉が落ちて細くなり、日常生活の動作が遅くなる」といった状態のことです。
加齢にともなうものを一次性サルコペニア、がんなどの疾患によって引き起こされるものを二次性サルコペニアと分類しています。
がん患者の一部でサルコペニアが認められ、予後不良のサインとして知られています。
たとえば、サルコペニア(あるいは肥満をともなうサルコペニア)がある患者さんは、がんの手術後に合併症が発生するリスクが高くなり、また死亡率が上がることが報告されています。
さらに、サルコペニア(あるいは治療中の筋肉量の減少)は、抗がん剤治療が効かなくなる(生存期間が短い)要因(マーカー)となるという研究報告もあります。
このように、サルコペニアは手術や抗がん剤治療の効果予測に重要であることがわかっています。
肺がん(NSCLC)に対する免疫チェックポイント阻害剤(抗PD-1抗体)の効果とサルコペニアとの関係
大阪大学IFReCプレスリリース(http://www.ifrec.osaka-u.ac.jp/en/research/20190222-0900.htm)より引用
Impact of sarcopenia in patients with advanced non-small cell lung cancer treated with PD-1 inhibitors: A preliminary retrospective study. Sci Rep. 2019 Feb 21;9(1):2447. doi: 10.1038/s41598-019-39120-6.
【対象と方法】
この大阪大学の研究グループによる後ろ向き研究では、過去にニボルマブ(オプジーボ)またはペンブロリズマブ(キイトルーダ)による治療を受けた進行(非小細胞性)肺がん(NSCLC)の患者(42人)を対象としました。
治療開始時のコンピュータ断層撮影(CT)上、第3腰椎の部位における腸腰筋の面積を計測し、腸腰筋インデックスを計算しました。
サルコペニアはアジア人のカットオフ値を用いて診断し、サルコペニアの有無と治療成績(無増悪生存期間および奏効率)との関係を調査しました。
【結果】
■ 治療開始時に、サルコペニアは全体の52.4%(42人中22人)に認められました。
■ 免疫チェックポイント阻害剤の投与回数は、サルコペニアがある患者では、サルコペニアを認めない患者に比べ、有意に少なくなっていました(中央値3.5回 vs. 11回, p = 0.021)
■ サルコペニアがある患者では、サルコペニアを認めない患者に比べ、無増悪生存期間が有意に短くなっていました(2.1ヶ月 vs. 6.8ヶ月, p = 0.004)。
■ サルコペニアがある患者では、サルコペニアを認めない患者に比べ、奏効率が有意に低いという結果でした(9.1% vs. 40.0%, p = 0.025)。
【結語】
以上の結果より、サルコペニアは、進行肺がん患者に対する抗PD-1抗体治療の効果を予測するマーカーとなるとしています。
実際の臨床では、治療時にサルコペニアの有無を調べることは、より長期間にわたり免疫チェックポイント阻害剤の効果が期待できる患者さんを選び出すことに役立つ可能性があると指摘しています。
まとめ
今回、「サルコペニアが免疫チェックポイント阻害剤の効果を予測する新たなマーカーとなる」ことを日本の研究チームが報告しました。
つまり、サルコペニア(筋肉量の低下)があると、オプジーボやキイトルーダの効果が弱まる(長期にわたって治療・効果が続かない)可能性があります。
手術や抗がん剤だけでなく、免疫治療においても筋肉量を保つ重要性が確認されました。