がん遺伝子検査 抗癌剤・分子標的薬

2021年のがん治療の流れはどうなる?医師が予測

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癌研究の進歩にともない、「がん治療の流れ」はめまぐるしく変化しています。

たとえば、「昨日使えなかった新しい治療法が、今日使えるようになる」。

こういったことも、実際にあるのです。

また、いいことばかりではありません。

遺伝子パネル検査など、治療前に薬が効くかどうかを評価する方法が普及するにしたがい、実際に薬が使える患者さんは、ごく一部の人に限定されることになります。

「せっかく期待していた治療が受けられない」ということも、現実におこっています。

また、コロナ禍の影響で、以前のような、迅速ながん治療が受けられない患者さんも増えています。

2021年のがん治療はどうなるのでしょうか?

予測してみました。

2021年のがん治療の流れ

2021年のがん治療の流れとして、大きく3つのテーマをあげてみました。

がんゲノム医療の普及、コロナによるがん治療の遅れ、そして、免疫チェックポイント阻害薬の適応拡大の3つです。

1.「がんゲノム医療」のさらなる普及

2021年には、がんゲノム医療の普及がますます加速されると予測されます。

具体的には、

  • 臓器別のがん治療から、遺伝子変異別の治療へ
  • ゲノム異常をターゲットとした新しい治療薬(分子標的薬)の導入
  • がん遺伝子パネル検査の普及(リキッドバイオプシーによる検査も含む)
  • AI(人工知能)によるがんゲノム解析の効率化
  • 臨床試験として全ゲノム解析がスタート(厚労省)

といったことが考えられます。

これまで、「胃がんであればこの薬、大腸がんであればこの薬」という具合に、臓器別のがん治療であったのが、これからは「KRAS(ケーラス)変異があるがんにはこの薬」というように、遺伝子変異別(臓器横断的)の治療が主流となるでしょう。

また、血液などの体液サンプル(リキッドバイオプシー)を用いてがんの遺伝子変異を調べるパネル検査が普及し、治療開始前に「どの薬が効くのか?」を調べる研究が行われていくと思います。

さらに、AIを用いたがんゲノム医療の加速や、全ゲノム解析によって、これまでの遺伝子パネル検査ではわからなかった新しい治療標的が発見されることも期待されます。

一方で、このようながんゲノム医療の恩恵にあずかる患者さんは依然として少ないことが問題となっています。

「せっかく検査したのに該当する遺伝子変異が見つからず、使える治療薬がない」患者さんが増加する可能性も否定できません。

2.がん治療の遅れ

新型コロナウイルス感染拡大は、今年(2021年)に入っても収まる気配がみられません。

病院など医療機関でのクラスターの発生も報道されています。

施設によっても違いますが、コロナ患者の受け入れや、感染対策を徹底しなければいけないため、がん患者さんのためのキャパシティ(入院ベッドや手術の枠)が減り、必然的に治療までの待機時間が増加しています。

このため、がん治療が確実に遅れることになります

以前のように、がんの診断後、すぐに入院・治療ができなくなってきました。

たとえば、2週間後に手術を予定したいがん患者さんがいたとしても、病床(空きベッド)や手術予定枠の都合、および事前のPCR検査など追加の検査にかかる時間によって、手術までの待機期間が1ヶ月以上にもおよぶことがあります。

今後も、この傾向は続くと考えられます。

一部のがんでは、治療の遅れによって、生存期間が低下する可能性も指摘されています。

手術を控えたがん患者さんには、自宅でできる準備(プレハビリテーション)を積極的に取り入れることをおいすすめしています。

3.免疫チェックポイント阻害薬の適応拡大

オプジーボ(ニボルマブ)やキイトルーダ(ペムブロリズマブ)といった免疫のブレーキを解除する薬(免疫チェックポイント阻害剤)の適応が、ますます拡大されつつあります

テセントリク(アテゾリズマブ)など他の免疫チェックポイント阻害薬も登場してます。

これまでは、皮膚がん(メラノーマ)、非小細胞肺がん、尿路系がんなど、一部のがん種に限られていましたが、今後は、マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する様々な固形がんに対して使われることでしょう。

また、通常の抗がん剤など標準治療が効かなくなってからしか使えませんでしたが、今後は、一部のがんでは、2次治療、あるいは1次治療として免疫チェックポイント阻害薬が使えるようになると考えられます。

つまり、第1選択薬として、免疫チェックポイント阻害薬が使えるようになる可能性があります。

免疫チェックポイント阻害薬のメリットは、比較的副作用が少ないことと、一旦効果が認められた場合、効果の持続期間が長い傾向があるということです。

とはいえ、高額な薬であり、また効かない人がいることも事実であり、今後は「どのような患者さんに使うべきか」ということをより厳密に判断する必要性も指摘されています。

まとめ

以上、2021年のがん治療の流れを予測してみました。

今年も最新のがん情報をお伝えしていきますので、よろしくお願いします。

  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

医師(産業医科大学 第1外科 講師)、医学博士。消化器外科医として診療のかたわら癌の基礎的な研究もしています。 標準治療だけでなく、代替医療や最新のがん情報についてエビデンスをまじえて紹介します。がん患者さんやご家族のかたに少しでもお役に立てれば幸いです。

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