ミドリムシ(学名ユーグレナ)は、以前よりサプリメントや食品素材として使用されていますが、最近その栄養価の高さ(59種類の栄養素)や、免疫力を高める作用などに注目があつまっています。
さらに、ユーグレナには、がんの発症をおさえる作用や、がんの進行を食い止める効果があることが報告され、がん患者のサプリメントとして効果が期待されています。
ミドリムシ(ユーグレナ)とは?
ミドリムシは5億年以上前に原始の地球で誕生した生き物で、体長わずか約0.05mmという小さな微生物(藻の一種)です。
動物と植物の両方の特徴を持ったミドリムシは、淡水で育ちます。
また、和名では「ミドリムシ」と言いますが「ムシ」ではなくワカメやコンブと同じ「藻」の仲間です。
緑色の体で植物のように光合成を行って栄養分を体内に蓄えるだけでなく、動物のように細胞を変形させて移動することもできます。このように生物学上で植物と動物、両方の性質を備えている生物は大変珍しい存在です。
以下にユーグレナのすぐれたところを列挙します。
59種類の豊富な栄養素
ユーグレナは動物と植物の両方を併せ持つ生物であり、このため含まれる栄養素が59種類と非常に多岐にわたっています。
具体的には、野菜や魚に含まれるビタミン、ミネラル、アミノ酸を豊富に含んでいます。つまり、これだけで必要とされる栄養をほぼすべてカバーしています。
また、高度不飽和脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)や各種カロテノイドも含んでいます。
これらの成分は抗酸化作用を有しているため、発がん予防やがん治療にも効果が期待されます。
さらに、ユーグレナの最大の特徴は、パラミロン(多糖類であるβ-グルカンの一種)という特有の成分をもっていることです。
一般的に、キノコ類などのβ-グルカンには免疫賦活作用(免疫力を高める作用)があると言われています。特にアガリクスや霊芝、メシマコブなどに含まれるβ-グルカンは強い免疫賦活作用があり、制がん作用があると言われています。
したがって、このユーグレナに特有のパラミロンにも他のβ-グルカン同様の作用があるのではないかと期待されています。
高い消化吸収率
一般に野菜を食べる場合、植物特有の細胞壁(さいぼうへき)が邪魔をして栄養素を効率よく吸収できません。
ところが、ユーグレナにはこの細胞膜がないため、効率よく栄養素を吸収することができます。
マウスを用いたユーグレナのタンパク質消化実験では、じつに約93%という高い消化率が報告されています。
したがって、単に野菜を食べるよりも、より効率よく栄養素が吸収できることが期待されます。
とくに食欲のない人の栄養維持には効率よくビタミンやアミノ酸が摂取できるユーグレナが理想的です。
ユーグレナの免疫バランス調節効果
また、ユーグレナのパラミロンには、免疫バランスを調節する効果がある可能性が示されています。
60代の男女10名にパラミロンを1日1.0g、2ヶ月間投与したところ、細胞性免疫系Th1から産生される代表的なサイトカインであるインターフェロンガンマ(IFN-γ)値が有意に上昇したとのことです。
このインターフェロンガンマ(IFN-γ)は、がん細胞を攻撃するNK細胞の増殖を促進したり、NK細胞の攻撃力を高める作用があります。
つまり、ユーグレナのパラミロンは免疫系のバランスをととのえ、がんの予防や治療に役立つ可能性があると考えられます。
ユーグレナのがん予防効果
さて、ユーグレナには実際にがんを予防する効果があるのでしょうか?
2013年、ユーグレナ(およびその成分であるパラミロン)の大腸がん抑制効果について学会誌「Food & Function」に掲載されました。
化学発がん性物質であるDMH(1,2-Dimethylhydrazine)投与による大腸がん誘発マウスを用いて、ユーグレナ、パラミロン、及びパラミロンの非結晶体であるアモルファスパラミロンの摂取によるがん抑制効果について検討を行いました。
その結果、発がん物質の投与により大腸がんの発生過程で見られる前がん病変(ACF:Aberrant Crypt Foci)の発症が、ユーグレナ摂取により32%、パラミロン摂取により59%、アモルファスパラミロン摂取により73%抑制されていることが明らかになりました。
すなわち、ユーグレナに大腸の発がん抑制効果が認められ、特にパラミロン及びアモルファスパラミロンが、このがん予防効果に関与していることが示唆されました。
ユーグレナの抗がん作用
最近、ユーグレナが抗がん効果をもっていることが報告されました。
肺がんと乳がん細胞を用いた実験によると、ユーグレナ抽出物は肺がん・乳がん細胞の細胞死(アポトーシス)を引き起こし、転移(浸潤と遊走)を有意に抑制したとのことです。
この抗がん効果の背景として、がん細胞の増殖や細胞死をコントロールする重要な細胞シグナルであるMAPK(マップキナーゼ)経路の阻害を伴っていたとのことです。
これらの結果より、ユーグレナはがんの増殖や転移を抑制する可能性があると結論づけています。
さらに最近、ミドリムシの成分であるユーグレノフィシンに、細胞および動物実験において大腸がんの増殖・進行を抑える作用があることが発見されました。
研究者らは、ミドリムシから抽出されたイクオトキシン(魚に対して有毒な化合物)のひとつであるユーグレノフィシン(euglenophycin)について、大腸がん細胞の増殖、遊走(運動する能力)を阻害することを示しました。
さらに、マウス大腸がん移植モデルにおいて、抗がん剤(CPT-11:イリノテカン)と同様に腫瘍の成長を阻害することを示しました(下図)。
以上の結果より、ミドリムシ(とくにその成分であるユーグレノフィシン)を用いた新たな抗がん剤の開発が待たれます。