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胃がん患者におけるサルコペニアと術後合併症:術前筋トレのすすめ!

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最近、「サルコペニア」という言葉を耳にする機会が増えました。サルコペニアとは、簡単に言うと病的な筋肉量や筋力の低下のことで、がん(特に消化器がん)の患者さんにみられることがあります。

このサルコペニアが重要なのは、術後の合併症リスクの増加、抗がん剤の副作用増加、および生存率低下(予後の悪化)と関連するからなのです。

例えば、胃切除を受けた胃がん患者における研究によると、サルコペニアがある患者では、重症の術後合併症が発生するリスクが3倍も高かったと報告されています。

一方でサルコペニアには段階(ステージ)があり、それぞれの段階における合併症のリスクについてはよくわかっていません。

今回、大規模な臨床研究によって、胃がん患者におけるサルコペニアの3つの段階と術後合併症リスクとの関係が明らかになりました。

サルコペニアの3つの段階

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サルコペニアの分類

ヨーロッパのサルコペニア診断基準(EWGSOP)によると、サルコペニアは、以下のようにプレサルコペニア、サルコペニア、および重症サルコペニアの3つの段階に分類されます。

つまり、最も初期の段階がプレサルコペニアで、最も進んだ段階が重症サルコペニアです。

1.プレサルコペニア

筋肉量のみの低下がみられるもの。

2.サルコペニア

筋肉量の低下に、筋力もしくは身体機能の低下のどちらかがみられるもの。

3.重症サルコペニア

筋肉量、筋力、身体機能の低下がみられるもの。

サルコペニアの診断方法

筋力の評価には握力を測定するのが一般的です。握力が男性で26kg未満、女性で18kg未満の場合、筋力低下があると判断します。

また身体機能の評価は歩く速度で行います。歩行速度が秒速0.8m以下の場合、身体機能が低下していると考えられます。

ちなみに、筋肉量の測定にはDXA法、BIA法、あるいはCTスキャンなどを利用したさまざまな方法が報告されており、定まったものはありません。

サルコペニアの段階と胃がん術後合併症との関係

Huangらは、胃がん患者において、サルコペニアの3つの段階と術後の合併症についての調査を行いました。

Impact of different sarcopenia stages on the postoperative outcomes after radical gastrectomy for gastric cancer. Surgery. 2017 Mar;161(3):680-693. doi: 10.1016/j.surg.2016.08.030. Epub 2016 Oct 4.

対象は、根治的胃切除術を施行した470人の胃がん患者です。

これらの患者さんを、ヨーロッパのサルコペニア診断基準(EWGSOP)にしたがってプレサルコペニア、サルコペニア、および重症サルコペニアに分類しました。

なお筋肉量は、CTの画像を用いて第3腰椎のレベルでの腹部の筋肉の面積を測定することで決定しました。筋力は握力で評価し、身体機能は歩行速度(6メートル歩行)で評価しました。

このサルコペニアの3つの段階と術後の合併症発生率との関係を後ろ向きに解析しました。

結果を示します。

■ 全員の胃がん患者さんのうち、プレサルコペニア、サルコペニア、および重症サルコペニアの割合は、それぞれ20.6%、10%、および6.8%でした。

■ すべての術後合併症(手術に関連したものや肺炎などの全身の合併症を含む)の発生率、入院期間、および医療コストは、サルコペニアの段階が上がるにしたがって増加していました。

■ 多変量解析(複数の危険因子を他の因子との関係も含めて解析する方法)では、重症サルコペニアがすべての術後合併症の独立した危険因子であった(プレサルコペニアとサルコペニアは独立した危険因子ではなかった)。

以上の結果より、胃がんの患者においては、サルコペニアが進行すればするほど術後合併症が増えることが示されました。

特に、最も進行したサルコペニアの段階である重症サルコペニアは、すべての合併症を増加させる独立した危険因子であることがわかりました。

サルコペニアは改善できるのか?

これらの結果より、胃がんなどの手術を控えた患者さんには、できるだけサルコペニアを予防あるいは改善する(少なくともサルコペニアの段階を軽症に近づける)努力が必要であると考えられます。

では、サルコペニアは改善できるのでしょうか?

別の記事でも紹介しましたが、手術の合併症を減らす取り組みとして、術前からのリハビリテーション(プレハビリテーション)というものがあります。

このプレハビリテーションは、栄養補給(おもにプロテインの補給)、運動(有酸素運動+レジスタンス運動)、および心理療法(不安やストレスを軽減)を組み合わせたプログラムから成り立っています。

これまでの研究では、術前4週間のプレハビリテーションによって大腸がん患者の身体能力と筋力が明らかに改善したという報告や、サルコペニアを認める高齢の胃がん患者さんに、術前から運動療法(握力トレーニング、ウォーキング、レジスタンス運動)と栄養サポート(タンパク質摂取のアドバイス+サプリメント)を行ったところ、一部の患者さんではサルコペニアが改善したとのことです。

つまり、プレハビリテーションによってサルコペニアは改善する(あるいはステージをさげる)ことが可能なのです。

自分の合併症は自分で減らす!

サルコペニアは術後合併症のリスクを増加させ、ひいては生存率を低下させる恐ろしい病態です。

ふだんからサルコペニアを予防することはもちろん重要ですが、とくに手術を控えた消化器がん患者さんには栄養補給+筋トレをおすすめします


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  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

医師(産業医科大学 第1外科 講師)、医学博士。消化器外科医として診療のかたわら癌の基礎的な研究もしています。 標準治療だけでなく、代替医療や最新のがん情報についてエビデンスをまじえて紹介します。がん患者さんやご家族のかたに少しでもお役に立てれば幸いです。

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