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肺がんの治療が変わる?免疫チェックポイント阻害剤による癌免疫療法の驚くべき効果

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肺癌(肺がん)は日本におけるがん死亡率トップのがんであり、現時点での抗がん剤治療には限界があります。分子標的治療薬の登場によって肺がん治療の選択肢は増えましたが、今なお多くの患者さんが、新しい画期的な治療法の開発を待っています。

さて、つい先日、肺がん治療を変える可能性がある非常にインパクトがある研究結果が報告されました。

海外から報告された、非小細胞肺がん(小細胞がんという特殊なタイプのがんを除いた一般的な肺がん)に対する比較試験(KEYNOTE-024試験)の結果によると、通常の抗がん剤治療よりも、新たな免疫チェックポイント阻害剤ペムブロリズマブ(キイトルーダ)のほうが圧倒的に効果が高いことが示されました。

近い将来、肺がんの初回治療にがん免疫療法が加わる可能性があります。今回の結果を、免疫チェックポイント阻害剤の仕組みとともに簡単に説明します。

免疫チェックポイント阻害剤とは?

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免疫チェックポイント阻害剤は、がん治療を変える画期的な抗がん剤として大変期待されていますが、そもそもどんな薬なのでしょうか?

人のからだには、もともとがん細胞を異物(よそ者)として認識し、退治する免疫細胞(NK細胞やリンパ球)がいます。がんの治療には、この免疫細胞のはたらきが非常に重要です。

免疫力を高める方法は、「がんを退治!免疫力を高める5つの習慣」に詳しく紹介しています。

一方、免疫細胞には暴走しないようにブレーキがあります。このブレーキのひとつが、免疫チェックポイント分子PD-1(programmed cell death-1)と呼ばれる「カギ穴」です。活性化した免疫細胞の表面にあるカギ穴PD-1に、PD-L1というカギが結合すると、免疫細胞にブレーキがかかり、がん細胞に対する攻撃をやめてしまうのです。

がんは巧みにこの仕組みを利用し、例えばPD-L1(カギ)を免疫細胞のカギ穴に差し込むことで免疫細胞にブレーキをかけ、その攻撃から逃れているのです。

免疫チェックポイント阻害剤は、簡単に言うと免疫細胞のブレーキを解除する薬です。

抗PD-1抗体のニボルマブ(商品名オプジーボ)ペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)は、このPD-1に結合することで、PD-1とPD-L1の結合をじゃまします。これにより、免疫反応にかかっていたブレーキを解除することができ、がんを抗原とする抗原抗体反応を強くし、がん細胞の増殖を抑制すると考えられています。

日本では、現在までにメラノーマ(皮膚がん)肺がん、そして腎細胞がんに対してニボルマブ(オプジーボ)が保険適応となっています。

肺がんに対するがん免疫療法

肺がんに対する治療薬として、日本では2015年12月にニボルマブ(オプジーボ)が先行して「切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」を適応として承認さました。また、ペムブロリズマブも2016年2月に申請されており、早ければ年内に承認される可能性があります

このような状況の中、未治療の非小細胞肺がんに対するペムブロリズマブ単剤と従来の抗がん剤治療とを比較した非盲検ランダム化比較第Ⅲ相試験(KEYNOTE-024試験)の結果が欧州臨床腫瘍学会(ESMO 2016)において報告され、さらに一流医学雑誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(N Engl J Med)の2016年10月9日オンライン版に掲載されました。

免疫チェックポイント阻害剤ペムブロリズマブの驚くべき効果

このKEYNOTE-024試験では、PD-L1(カギ)の発現ががん細胞の50%以上で陽性などの条件を満たす、305名の未治療(他の治療を受けていない)非小細胞肺がんの患者さん305例を対象にし、ペムブロリズマブ単剤投与群と従来のプラチナ製剤を使った化学療法群にランダムにグループ分けし、治療成績(一番の評価項目は無増悪生存期間(がんが進行することなく生きている期間))と安全性を比較しました。

その結果、ペムブロリズマブ群で無増悪生存期間(PFS)の有意な延長効果が認められました(下図)。無増悪生存期間の中央値(平均的な期間)は、化学療法群の6ヶ月であったのに対し、ペムブロリズマブ群では10ヶ月でした。

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(N Engl J Med 2016より一部改変)

さらに、これも驚くべき結果ですが、差がでるのが非常に難しいとされるクロスオーバー試験(化学療法が効かなかった場合、途中からペムブロリズマブへ変更できる)であるにもかかわらず、全生存期間(OS)に関してもペムブロリズマブ群での有意な延長効果が認められました(下図)。ハザード比が0.60ということですので、ペムブロリズマブは死亡のリスクを従来の化学療法よりも40%も低下させたということになります

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(N Engl J Med 2016より一部改変)

さらに、安全性の面では、(グレード3以上の)副作用は化学療法群(53.3%)よりペムブロリズマブ群(26.6%)で少なかったということです。

まとめ

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以上の結果より、ペムブロリズマブによるがん免疫療法は従来のシスプラチンなどをベースにした抗がん剤治療よりも非常に効果が高く、かつ副作用の少ない治療であることが証明されました。

今後、非小細胞肺がんに対する一次治療(初回治療)として、ペムブロリズマブによるがん免疫療法が加わることが予想されます。

さらに、ペムブロリズマブについては、膀胱がん、乳がん、大腸がん、食道がん、胃がん、頭頸部がん、多発性骨髄腫、ホジキンリンパ腫、肝がん、卵巣がん、前立腺がんなどを対象とした臨床試験も国内で行われています。近い将来これらのがんに対しても承認される可能性があります。

がん患者さんにとって、新たな福音となることは間違いないでしょう。

 


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  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

医師(産業医科大学 第1外科 講師)、医学博士。消化器外科医として診療のかたわら癌の基礎的な研究もしています。 標準治療だけでなく、代替医療や最新のがん情報についてエビデンスをまじえて紹介します。がん患者さんやご家族のかたに少しでもお役に立てれば幸いです。

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