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アドレナリンが膵臓がんの悪性度を高める!心配や不安・ストレスによるがん進行の理由

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がん患者さんの多くは心配や不安といった心理的(精神的)苦痛を感じています。

最近の報告によると、この心理的苦痛が強いほど、がん患者の生存期間(余命)が短くなるということが明らかになりました。

でも、どうして心理的苦痛ががんの生存率を低下させるのでしょうか?

今回、恐怖や不安などの精神的ストレスによって分泌される自律神経系ホルモンであるアドレナリンが、膵臓がんの悪性度を高めるという実験結果が報告されました。

心理的苦痛ががんの進行を早めるメカニズムを理解し、治療へ応用するためのヒントとなる重要な報告であると考えられます。

膵臓がんの死亡率と心理的苦痛との関係

Psychological distress in relation to site specific cancer mortality: pooling of unpublished data from 16 prospective cohort studies.  BMJ. 2017 Jan 25;356:j108. doi: 10.1136/bmj.j108.

イギリスで行われた大規模な調査によると、心理的苦痛が強い人では、心理的苦痛が弱い人と比較して、がん(全部位)による死亡率がおよそ30%も高くなっていました。

膵臓がんに関しては、心理的苦痛は死亡率を2.76倍も増加することが示されました。

このように膵臓がんでは、心理的苦痛(ストレス)によって死亡率が2倍以上も上昇するということが研究によってわかりました。

自律神経系とは?

からだの様々な機能を調節するシステムには、"自律神経系"というシステムがあります。

自律神経系には、興奮や緊張などで活発化する交感神経とリラックスした時などに活発化する副交感神経の二つがあります。

興奮したり緊張したとき、あるいは恐怖や不安、怒りや悲しみを感じたときには交感神経が優位となり、副腎という臓器からアドレナリン(エピネフリン)とノルアドレナリン(ノルエピネフリン)というホルモンが血液中に分泌されます。

その結果、心拍数や血圧が上昇する、呼吸数が増加する、血糖値が上昇する、などさまざまな体の変化がもたらされます。

膵臓がんにおけるアドレナリンと悪性度:上皮間葉転換との関係から

Adrenaline promotes epithelial-to-mesenchymal transition via HuR-TGFβ regulatory axis in pancreatic cancer cells and the implication in cancer prognosis. Biochem Biophys Res Commun. 2017 Sep 28. pii: S0006-291X(17)31927-7. doi: 10.1016/j.bbrc.2017.09.146. [Epub ahead of print]

研究者らは、まず膵臓がん患者の血液中のアドレナリン濃度を測定しました。

■ 膵臓がん患者(78人)の血中アドレナリン濃度は、健常人(30人)と比較しておよそ3倍も上昇していた(下図左)。
■ さらに、膵臓がん患者のうち、アドレナリン濃度が低いグループの生存期間(中央値)が16.6ヶ月であったのに対して、アドレナリン濃度が高いグループでは9.6ヶ月と短かった(下図右)。

アドレナリンと膵癌

すなわち、アドレナリンが多く分泌されている膵臓がん患者は予後不良であることが示されました。

次に、アドレナリンが膵臓がんにどのような影響をおよぼしているかを調べるために、膵臓がん細胞(PANC-1)に濃度の異なるアドレナリンを加えました。

■ アドレナリン膵臓がん細胞の遊走能(運動能)を増加させ、この増加は濃度依存的(濃度が高いほど効果が大きくなること)でした(下図左)。
■ また、このアドレナリンによる遊走能の変化は、Eカドへリンの発現低下とビメンチンの発現上昇、いわゆる上皮間葉転換(epithelial-mesenchymal transition, EMT)を伴っていました(下図右)。

上皮間葉転換(EMT)とは、上皮系細胞が移動や浸潤(まわりに入り込む)能力をもつ間葉系細胞に転換する変化のことです。このEMTがおこると、がんの悪性度が高まり、浸潤や転移をおこしやすくなります

アドレナリンと膵癌の遊走能

■ さらに、このアドレナリンの効果はアドレナリンβ2受容体の活性化を伴っており、アドレナリンβ2受容体阻害剤(ICI 118,551)で完全にブロックされました。

以上まとめると、

(1)血中アドレナリン濃度が高い膵臓がん患者は予後不良の傾向があり、

(2)アドレナリンが、アドレナリンβ2受容体を介して膵臓がん細胞の上皮間葉転換(EMT)をうながし、遊走能(運動)を亢進していることが示唆されました。

不安や心配といった心理的ストレスががんを進行させ、死亡率の増加につながるという臨床データの裏付けになる基礎的データだと思います。

また、このアドレナリンによるがん悪性化はアドレナリンβ2受容体をブロックすることで阻害できることより、βブロッカー(高血圧など循環器系疾患の治療薬)が膵臓がんに対して有効な可能性があります。実際に試験管および動物実験では、β-ブロッカーのプロプラノロールが、膵臓がんの増殖を抑制することが示されています。

今後のさらなる研究に期待したいと思います。


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  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

医師(産業医科大学 第1外科 講師)、医学博士。消化器外科医として診療のかたわら癌の基礎的な研究もしています。 標準治療だけでなく、代替医療や最新のがん情報についてエビデンスをまじえて紹介します。がん患者さんやご家族のかたに少しでもお役に立てれば幸いです。

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