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新型コロナウイルス感染症、がん患者は死亡など重症化のリスク高い:中国における全国的前向き調査結果

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新型コロナウイルスの感染拡大がとどまることなく、日本国内においても患者発生数が増加しつつあります。

2月26日、政府は、今後2週間はイベントの中止や延期、規模縮小を政府として要請する方針を表明しました。

また、中国、韓国を中心に世界的に死亡者増加との報道もあり、感染に対する過度なおそれが広がっています。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が重症化しやすいのは、一般的には慢性の呼吸器疾患がある高齢者や糖尿病、がんなど基礎疾患(持病)がある人とされています。

がん患者さんやサバイバーでは、どの程度リスクが高くなるのでしょうか?

今回、中国から、がん患者さんにおける新型コロナウイルス感染の状況について、最新の研究報告がありましたので、紹介します。

がん患者における新型コロナ感染症:中国における全国的解析

Cancer patients in SARS-CoV-2 infection: a nationwide analysis in China.  2020 Feb 14. pii: S1470-2045(20)30096-6. doi: 10.1016/S1470-2045(20)30096-6. [Epub ahead of print]

【背景】

がん患者は、がんそのものによって、また化学療法や手術などにより全身性の免疫抑制状態にあるため、がんのない患者よりも感染に弱い傾向にあります。

そこで、がん患者では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発症リスクが高く、予後が悪くなるのかどうかを調査しました。

【対象と方法】

中国における新型コロナウイルス感染症症例をモニターするための前向きコホート研究です。

2020年1月31日の時点までに、中国全土の575の病院から2,007例の症例を収集して解析しました。すべての症例は、検査によってCOVID-19急性呼吸器疾患と診断され入院しました。

このうち、過去の病歴の記録が不十分な417例は除外しました。

【結果】

■ 1,590例中18例(1%)にがんの既往があり、中国における一般人口のがん発症率(0.29%)よりも高い傾向にありました。

■ がんの種類では、肺がんが5例(28%)と最多でした。

■ 16例中4例(25%)が過去1カ月以内に化学療法もしくは手術を受けており、残りの12例はがん切除術後の経過観察中でした。

■ がん患者では、がんのない患者と比べて年齢が高く(63.1歳 vs 48.7歳)、喫煙歴が高い可能性があり(22% vs. 7%)、多呼吸の症状が多く(47% vs. 23%)、CT所見で重症例が多いという結果でした(94% vs 71%)。

■ 最も重要な点として、がん患者では、がんのない患者と比べて重篤なイベント(集中治療室での気管挿管または死亡)のリスクが有意に高いという結果でした(39% vs. 8%、P=0.0003)。

■ 過去1カ月以内に化学療法もしくは手術を受けたがん患者では、重篤なイベントのリスクが高く(75% vs. 43%)、他の危険因子(年齢、喫煙歴、合併症など)で調節したところ、5倍以上(オッズ比は5.34)でした(P=0.0026)

■ がん患者において、重篤なイベントと関連する唯一の危険因子は高齢でした(オッズ比1.43、P=0.072)。

■ 肺がん症例は、他のがん症例と比べて重篤なイベントのリスクが低いという結果でした(20% vs. 62%、P=0.294)。

 がん患者は、がんのない患者と比べて急速に悪化することが示されました(イベント発生までの日数:13日 vs. 43日、HR 3.56、P<0.0001)(下図)。

【結語】

以上の結果より、がん患者では、がんのない患者に比べ、新型コロナウイルス感染症によって重症化しやすく、死亡や気管内挿管が必要となる症例が多く、短期間で急速に悪化することが示唆されました

これらの結果から、

1.感染地域における(症状が安定した)がん患者さんの補助化学療法(抗がん剤)や手術を延期すること。

2.がん患者やがんサバイバーでは、より厳重な感染対策を行うこと。

3.がん患者が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)になった場合(とくに高齢患者や他の併存疾患がある患者)、より徹底した観察や治療を考慮すること、

などを提案しています。

がん患者さんが新型コロナウイルス感染で注意すること

以上、今回の中国からの前向き研究では、がん患者さんでは、新型コロナウイルス感染によって重症化するリスクが高い(とくに、1ヶ月以内に抗がん剤や手術を受けた患者では死亡など重篤なイベント発生率が高い)という結果でした。

とはいえ、むやみにおそれることはありません。

大切なのは、まずは感染を防ぐこと。

新型コロナウイルスのおもな染経路は、飛沫感染および接触感染であり、その予防対策としては、他の感染症と同様、咳エチケットと手洗いやアルコールなどによる手指衛生が最も重要となります。

また、これも他の感染症の対策と同じですが、抵抗力(体力と免疫力)をつけておくことも必要になります。

栄養と適度な運動、そして十分な睡眠をとり、体の抵抗力を高めておきましょう。

もし、発熱や咳などの呼吸器症状がある場合には、主治医または専門の医療機関に相談しましょう。

受診すべきかどうかの判断に迷う場合には、厚生労働省のホームページの「新型コロナウイルス感染症についての相談・受診の目安(https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000596905.pdf)」を参照し、新型コロナウイルスに感染している疑いがある場合は、帰国者・接触者相談センター(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/covid19-kikokusyasessyokusya.html)に相談しましょう。

  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

医師(産業医科大学 第1外科 講師)、医学博士。消化器外科医として診療のかたわら癌の基礎的な研究もしています。 標準治療だけでなく、代替医療や最新のがん情報についてエビデンスをまじえて紹介します。がん患者さんやご家族のかたに少しでもお役に立てれば幸いです。

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