膵臓がん

膵臓がんに対するナノナイフと抗がん剤の併用が生存率を改善

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膵臓がんでは、発見時にすでにまわりの臓器や血管に広がっていることが多く、局所進行膵臓がんと診断されます。

局所進行膵臓がんに対する標準治療としては、抗がん剤(単独)あるいは抗がん剤と放射線治療の組み合わせを行います。

最近では、ゲムシタビンとアブラキサンの併用療法など、効果が高い抗がん剤治療が導入され、治療成績も改善してきました。

しかしながら、抗がん剤の耐性(効かなくなること)などの問題もあり、依然として生存期間は満足のいくものではありません。

局所進行膵臓がんに対する治療のオプションとして、不可逆的電気穿孔法(ナノナイフ)があります。

日本ではまだ普及していませんが、海外ではナノナイフの研究および臨床応用がすすみ、良好な治療成績が報告されています。

今回、海外から局所進行膵臓がんに対する抗がん剤とナノナイフの併用療法について、大規模データベースをつかった生存率などの結果が報告されていましたので紹介します。

不可逆的電気穿孔法(ナノナイフ)とは?

不可逆的エレクトロポレーション(Irreversible electroporation: IRE)治療(商品名:ナノナイフ(NanoKnife®)は、がんを局所的に焼灼する比較的新たな治療法です。

具体的には、皮膚の上から、あるいはお腹を開けて、細い電極針を、がんを取り囲むように刺し、3000ボルトの高電圧で電流を流すことにより、がん細胞にごく小さな穴をあけて死に至らしめる治療法です。

ナノナイフ

山王病院ホームページより

これまで外科的に切除ができないと診断された進行膵臓がんにも適応可能な治療法として、期待が高まっています。

国内では、山王病院(東京都港区赤坂)がん局所療法センター長の森安史典(もりやす・ふみのり)医師が、膵臓がんに対してナノナイフ治療を行っており、これまでに多くのの治療実績があります。

現時点での膵臓がんのナノナイフ治療の適応は、以下の条件を満たす患者さんになります。

  • 膵臓の中とその周りにとどまっている膵がん(局所進行膵がん)であること
  • 遠隔転移がないこと
  • 腹膜播種(がんが腹膜に浸潤している状態)がないこと
  • 心臓に病気がないこと
  • 胆管に金属ステント(胆汁の流れを確保する管)が入っていないこと

詳しくは、山王病院 がん局所療法センターのホームページをごらんください。

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局所進行膵臓がんに対する抗がん剤とナノナイフの併用療法による生存率の改善

Comparison of Survival Between Irreversible Electroporation Followed by Chemotherapy and Chemotherapy Alone for Locally Advanced Pancreatic Cancer.  2020 Jan 22;10:6. doi: 10.3389/fonc.2020.00006. eCollection 2020.

アメリカ国立がん研究所(NCI)によるがん患者の大規模なデータベース(SEERプログラム)などを使った後ろ向き解析です。

手術不能の局所進行膵臓がんに対して、抗がん剤治療のみを行ったグループ(抗がん剤単独群)と抗がん剤にナノナイフを併用したグループ(ナノナイフ併用群)の治療成績を、傾向スコアマッチング(プロペンシティスコアマッチング)という統計学的手法を用いて比較しました。

結果を示します。

■ 抗がん剤単独群の生存期間(中央値)は9ヶ月であったのに対し、ナノナイフ併用群では16ヶ月 (95% CI, 12~21ヶ月)でした。

■ 傾向スコアマッチングによる比較においても、全生存期間は、抗がん剤単独群(8ヶ月)に比べ、ナノナイフ併用群(16ヶ月)で2倍になっており、有意に延長していました

■ 5年全生存率は、抗がん剤単独群では0.9%でしたが、ナノナイフ併用群では21.8%でした(P < 0.001)

以上の結果より、局所進行膵臓がんに対する「抗がん剤とナノナイフの併用療法」は生存期間を延長する有効な治療法であると結論づけています。

アメリカでナノナイフ治療を受けた膵臓がん患者の動画

YouTubeに、アメリカでナノナイフ治療を受けた膵臓がん患者さんが動画で紹介されていました。

この患者さんは、切除不能の局所進行膵臓がん(ステージIII)で、抗がん剤や抗がん剤と放射線の併用治療を行っていたところ、家族が調べた情報でナノナイフを受けることになったようです。

この動画の撮影時に「ナノナイフを受けてから44ヶ月、診断を受けてから5年」と言ってますから、治療が非常にうまくいっていると感じます。

もちろん、日本では膵臓がんに対するナノナイフは保険適応外の非標準治療ですし、効果が乏しい例や合併症もあると思います。

しかし、今回の治療成績やこの患者さんのようなケースがあることをみると、ひとつの治療オプションとしてナノナイフを試してみる価値はあるかもしれません

  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

医師(産業医科大学 第1外科 講師)、医学博士。消化器外科医として診療のかたわら癌の基礎的な研究もしています。 標準治療だけでなく、代替医療や最新のがん情報についてエビデンスをまじえて紹介します。がん患者さんやご家族のかたに少しでもお役に立てれば幸いです。

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