ウコンの成分であるクルクミンが、発がんを予防し、がんの進行を抑制する報告が増えています。
海外の臨床試験では、肝臓に転移した膵臓がんが、クルクミンの単独投与によって縮小した症例も報告されています(Dhillon N., et al. Clin Cancer Res. 2008;14:4491-9)。
クルクミンの抗がん作用のメカニズムとして、抗酸化・抗炎症作用、血管新生阻害作用、およびがん細胞の増殖を直接抑制したり、アポトーシス(細胞死)を誘導する作用などが明らかとなっています。
今回、クルクミンの膵臓がんに対する抗がん作用の新たなメカニズムが報告されました。
クルクミンはがん細胞だけでなく、まわりに存在するがんの進行を手助けする細胞にも効果を発揮し、がんの転移を抑制しているとのことです。
間質(かんしつ)という、がん細胞を取り囲む組織が豊富に存在する膵臓がんに対して、クルクミンが有効である可能性を示す非常に興味深い結果ですので紹介します。
がんと間質(かんしつ)との関係について
がんは単独で成長するのでなく、まわりの環境(がん微小環境といいます)をうまく利用して発育・進展していきます。
つまり、がん細胞はまわりを取りかこむ間質(かんしつ)という組織とコミュニケーションを取りながら悪性度を高め、周囲へ広がったり転移を促進していると考えられています。
これを、がん間質相互作用といいます。
特に、がん細胞は間質に存在する線維芽細胞(せんいがさいぼう)という細胞をてなずけて、その性質(性格)を変化させ、自分の活動範囲を広げていくと考えられています。
このことを示す一例を示します。以前、私が行った膵臓がん細胞と線維芽細胞とのコミュニケーションの実験結果です。
この実験では、膵臓がん細胞と、間質から取ってきた線維芽細胞(せんいがさいぼう)を小さな穴のあいた人工の膜一枚を隔てて、上の部屋と下の部屋にまきます(上の図の左側)。
右の写真は、組織に見たてた物質を突き破り、膜の下側まで移動してきたがん細胞を染めて見やすくしたものです。赤く染まっているがん細胞が多ければ多いほど、がんの広がる勢い(いきおい)が強いことを示します。
がん細胞だけをまいた場合(上図の真ん中)に比べ、がん細胞と線維芽細胞を一緒に(別の部屋に)まいた時の方が、膜の下まで到達したがん細胞が多いことが分かります(上図の右側)。
つまり、がん細胞は線維芽細胞と間接的にコミュニケーションをとり、自らの浸潤能(組織に見たてた物質を突き破り、まわりに広がる能力)を高めるのです。
したがって、がんの治療を考える場合、がん細胞だけを攻撃するのではなく、この間質との相互作用をブロックすることも大事であると考えられます。
クルクミンが線維芽細胞を抑制して膵臓がんの転移を抑制
2017年1月にAmerican Journal of Cancer Research誌に発表された論文によると、クルクミンに膵臓がんの転移を抑制する新たなメカニズムを発見したとのことです。
この研究では、膵がん細胞の線維芽細胞の培養上清(ばいようじょうせい:細胞から出る物質を含んだ液体)による遊走(がん細胞の運動)刺激の実験と、マウスにおける膵臓がんの肺転移モデルの実験において、がん細胞と混ぜる線維芽細胞を事前にクルクミン(0~10 μM)で治療した場合にどうなるかを調べています。
結果を示します。
遊走(がん細胞の運動)の実験では、膵がん細胞の遊走(運動能力)は線維芽細胞の培養上清を加えることで高まる(下図の赤丸)ですが、事前にクルクミンで治療した線維芽細胞の培養上清では遊走能が高まりませんでした(下図の青丸)。
Am J Cancer Res. 2017 Jan 1;7(1):125-133より一部改変
さらに、マウスを用いた膵臓がんの転移実験では、がん細胞だけをマウスに移植したときよりも、がん細胞と線維芽細胞を混ぜて移植したときの方が、肺への転移は増加する(下図の赤い矢印)のですが、クルクミンで治療した線維芽細胞と混ぜて移植した場合、この肺転移の増加が抑制されました(下図の青い矢印)。
Am J Cancer Res. 2017 Jan 1;7(1):125-133より一部改変
つまり、この動物実験からも、クルクミンは線維芽細胞に対して直接作用し、がん細胞と協力して転移を促進する作用をブロックすることが示されました。
これは、これまでに報告されている、クルクミンのがん細胞自体の増殖制効果や、アポトーシス導入効果に加えて、まわりの細胞にも効果を発揮するという新しい抗がんメカニズムであると考えられます。
今後、人における臨床試験を含めたさらなる研究によって、膵臓がんに対するクルクミンの有効性が証明されることが期待されます。
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