免疫治療 肺がん

術前のニボルマブ、肺がんの45%に治療効果あり:新たな術前免疫療法に期待

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免疫チェックポイント阻害剤(オプジーボあるいはキイトルーダ)によって、進行した非小細胞肺がん(NSCLC)の生存率が改善することがわかり、大きな期待が寄せられています。

一方で、比較的早期の切除可能な肺がんの治療は、ここ10年間でほとんど進展していません

外科切除を受けた肺がん患者の5年生存率は、ステージIAの50%からステージIIIAの20%といまだ十分とは言えず、ほとんどの患者では再発することが問題となります。

最近、切除可能な早期の肺がんに対し、抗PD-1抗体薬ニボルマブ(オプジーボ)による術前免疫療法の安全性および有効性を調べる臨床試験が行われました。

今回、その結果がニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン誌に発表されました。

研究者らは、オプジーボによる術前免疫療法はたいへん有望な治療法であると述べています。

非小細胞肺癌に対する免疫チェックポイント阻害剤

免疫チェックポイント阻害剤は、簡単に言うと免疫細胞のブレーキを解除する薬です。

つまり、がん細胞を攻撃する免疫細胞(T細胞)の働きにブレーキをかけているPD-1とPD-L1(およびPD-L2)の結合を阻止することで、PD-L1により抑えられていたT細胞の働きを活性化することで抗がん効果を発揮する薬です。

免疫チェックポイント阻害剤には、免疫細胞にある「カギ穴」のPD-1に対する抗体薬(オプジーボとキイトルーダ)と、がん細胞が持っているタンパク質である「カギ」のPD-L1に対する抗体薬(アテゾリズマブ)があります。

現在、非小細胞肺癌に承認または適応申請されている免疫チェックポイント阻害剤を紹介します。

オプジーボ(ニボルマブ)

オプジーボは、2015年12月に国内ではじめて「切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」の適応追加承認を取得した抗PD-1抗体薬です。

現在、ステージ4の非小細胞肺癌に対する2次治療(最初の治療がうまく行かなかった場合の次の治療)以降において、オプジーボは標準治療のひとつに位置づけられています。 

キイトルーダ(ペンブロリズマブ)

キイトルーダは、非小細胞肺癌の1次治療(最初の治療)として、従来の抗がん剤治療と比較した非盲検ランダム化比較第Ⅲ相試験(KEYNOTE-024試験)において、PD-L1高発現の患者で全生存期間(OS)を延長しました。

この結果をうけ、キイトルーダは2016年12月に「PD-L1陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌 」の適応承認をうけ、1次治療(PD-L1発現率50%以上)、2次治療(PD-L1発現率1%以上)のいずれもで使用が可能となりました。

アテゾリズマブ(テンセントリク)

さらに、非小細胞肺がんに対しては、アテゾリズマブ単剤療法がPD-L1発現率に関係なく有効であることが証明されており、現在非小細胞肺癌の2次治療以降の治療法として適応申請中です。

早期(切除可能)非小細胞肺がんに対する術前PD-1阻害剤の有効性

Neoadjuvant PD-1 Blockade in Resectable Lung Cancer. N Engl J Med. 2018 May 24;378(21):1976-1986. doi: 10.1056/NEJMoa1716078. Epub 2018 Apr 16.

【対象と方法】

切除可能な非小細胞肺がん(ステージI, II, またはIIIA)の患者に対して、術前にオプジーボを投与(体重1キログラムあたり3mgを2週間毎に静注)。

初回投与からおよそ4週間後に外科手術を予定しました。

主要エンドポイント(評価項目)は安全性および実行可能性とし、腫瘍の病理学的奏効、PD-L1の発現、遺伝子変異の負荷、ネオアンチゲン特異的T細胞(Tリンパ球)免疫応答なども調査しました。

【結果】

■ 術前のニボルマブ投与の副作用は許容範囲であり、手術が遅れは認めませんでした。
■ 切除手術を行った21例中、20例では完全切除が可能でした
■ 切除された20個の腫瘍のうち、9個(45%)に病理学的奏効(活動性腫瘍の残存が10%以下)が認められました(下図)

ニボルマブ術前NSCLC完全奏効

■ 組織学的腫瘍縮小率の中央値は、-65%でした。
■ 病理学的奏効は、PD-L1が陽性の腫瘍および陰性の腫瘍の両方でみられ、また遺伝子変異負荷と有意な相関を示していました(つまり、遺伝子変異が多い腫瘍で効果が高かった)
■ 9例中8例で、ニボルマブ投与後に腫瘍と血液中のT細胞クローン数が増加していました。また、病理学的完全奏効がみられた腫瘍の遺伝子変異に関連するネオアンチゲン特異的T細胞クローンが、治療後2~4週間で血液中に増加していました。

【結論】

切除可能な非小細胞肺がんに対する術前のニボルマブ投与は安全に施行可能であり、手術をおくらせることなく、45%の症例で病理学的奏効をもたらしました

とくに腫瘍の遺伝子変異が多いがんに効果が高く認められ、がん細胞を攻撃するネオアンチゲン特異的T細胞が血液中に増加していました。

これらの結果より、術前の免疫チェックポイント阻害剤治療は早期の肺がんに対する新たな治療戦略になることが示唆されました。

まとめ

現在、オプジーボおよびキイトルーダは、切除不能な進行した非小細胞肺がんに対して承認されています。

一方で、切除可能な早期の肺がんに対しては、免疫療法の有効性は証明されていませんでした。

今回、切除可能な非小細胞肺がんに対するオプジーボの術前投与が、45%の症例で病理学的奏効をもたらすという結果でした。

過去の試験においては、肺がん(扁平上皮がん以外)に対する術前の抗がん剤治療によって、およそ20%の病理学的奏効率が報告されています。

今回の術前免疫療法はこれを大幅に上まわる有効性であり、大変有望であるといえます。

今後の長期的な予後(生存期間)解析が待たれます。

また術前免疫療法は、肺がんにとどまらず、現在、術前抗がん剤治療が行われている乳がん(実際に海外で臨床試験中)、食道がん膵臓がんなど他のがんに対しても有効である可能性があります

 


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  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

医師(産業医科大学 第1外科 講師)、医学博士。消化器外科医として診療のかたわら癌の基礎的な研究もしています。 標準治療だけでなく、代替医療や最新のがん情報についてエビデンスをまじえて紹介します。がん患者さんやご家族のかたに少しでもお役に立てれば幸いです。

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