ヒアルロン酸産生をブロックする薬(4-MU/ヒメクロモン)のがん治療における可能性
ヒアルロン酸とがん治療に関連した非常に興味深い研究報告があります。
前にも述べましたが、多くのがんではヒアルロン酸が異常に多くなっており、一部でがんの進行(増殖や転移)を促進していることがわかっています(下記参照)。
つまり正常の組織にとってはヒアルロン酸はなくてはならない重要な物質ですが、がんを進行させる悪役でもあるのです。
逆に、ヒアルロン酸をブロックすることによってがんの進行を阻止できる可能性があります。
今回、すでに様々な国でサプリメントや薬剤として使用されているヒアルロン酸産生阻害剤が、がんの治療に有効である可能性を示す研究結果を紹介します。
ヒアルロン酸産生阻害剤4-メチルウンベリフェロン(4-MU)とは?
4-メチルウンベリフェロン(4-MU)とは、別名をヒメクロモン(hymecromone)ともいい、ヨーロッパやアジアですでにサプリメントとして使用されている薬剤の一種です。この4-MUには胆汁の流れをよくして肝臓の機能を改善する効果があります。
日本においても、エーデシン・Cという名前で、胆石症、胆のう炎、胆道ジスキネジー、胆のう切除後症候群に対する薬として使われています。また副作用はほとんどなく、まれに腹部の膨満感や便秘がみられる程度であると報告されています。
この4-MUには、じつは細胞がヒアルロン酸をつくるのをブロックする作用があります。このため、がんの治療薬としても期待されています。
実際に、いくつかの研究では、この4-MUが様々ながんの進行を阻害することが証明されています。以下に紹介します。
膵臓がん対する4-MUの効果
まずは私たちの研究室から報告した実験結果を紹介します。
この実験では、遊走能(ゆうそうのう)という、がん細胞の動きについて調べています。この遊走能が高まると、がんが活発に動き、結果的に転移しやすくなると考えられています。
膵臓がん細胞にヒアルロン酸を直接加えると、がん細胞の遊走能が高まるのですが、4-MUを加えると遊走能が阻害されました(下図)。
つまり、4-MUが膵臓がん細胞の動きをブロックし、おとなしくさせる作用があったということです。
次に、日本の別の研究チームから最近報告された、膵臓がんのマウス腹膜播種(ふくまくはしゅ)モデルを使った実験です。
マウスの腹腔内に、膵臓がんの細胞を移植する腹膜播種モデルを作成し、このマウスに経口的に4-MUを与えて治療効果について調べました。
その結果、4-MUを投与したグループでは、腫瘍のヒアルロン酸が減少しており、生存期間の延長がみられたとのことです。
前立腺がんに対する4-MUの発がん抑制および治療効果
アメリカの権威ある腫瘍学の雑誌、Journal of National Cancer Instituteに2015年に発表された論文です。
遺伝子操作によって前立腺がんを発症する前立腺発がんモデル(TRAMPマウス)では、28週目に前立腺にがんができ、転移がみられるのですが、4-MUを与えたグループでは前立腺がん発生と転移がともに阻害されました。
また、前立腺がん細胞を移植した他の動物モデルにおいても、4-MUは腫瘍の増殖を抑制し、さらに転移をブロックすることが示されました。
上記の他にも、4-MUは単独あるいは他の抗癌剤との組み合わせで、乳がん、卵巣がん、肝細胞がん、腎細胞がん、および悪性末梢神経鞘腫瘍など様々ながんの増殖や転移を抑制することが報告されています。
まとめ
これらの結果より、4-MUは、一つにはヒアルロン酸の産生をブロックすることによって、がんの予防や治療効果をもたらしていると考えられます。
また、すでにサプリメントや薬剤として使用されており、重大な副作用が無いことも確認されています。
ただ、現時点では4-MU(ヒメクロモン)はがんの治療目的では使用されていません。人での臨床試験もふくめて、今後のさらなる研究成果に期待したいところです。
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