がん自然退縮 膵臓がん

膵臓がんリンパ節転移の自然寛解(自然退縮)の1例:炎症と免疫の関係

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がんが、治療を受けずに自然に小さくなったり、消失する、いわゆる「自然退縮あるいは自然寛解(spontaneous regression)」の症例は、世界中から多数報告されています。

その原因はわかっていませんが、多くの場合、免疫反応が関係している可能性が指摘されています。

過去の記事では、大腸がん、肝細胞がん、乳がん、あるいは肺がんの自然退縮例を紹介してきました。

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今回、膵臓がんの多発リンパ節転移が自然退縮(縮小)した症例が報告されました。

もともと、膵臓がんの自然退縮の報告はほとんどなく、極めてまれであると考えられます。

「進行が早く、治療が難しいと言われている膵臓がんでも、無治療で自然退縮するものがある」という証拠でもあり、貴重な例として紹介します。

転移性膵臓がんの自然寛解の1例:繰り返す炎症の役割

Spontaneous Regression of Metastatic Pancreatic Cancer: A Role for Recurrent Inflammation. Pancreas. 2019 Jan;48(1):e4-e6. doi: 10.1097/MPA.0000000000001193.

【症例】

・59歳の女性

・2週間前からの黄疸を訴えて、病院を受診。

・膵頭部の2センチ大の腫瘍(組織検査では腺がん)に対して、膵頭十二指腸切除を行った。

・術後診断は、ステージIIB(T3, N1(所属リンパ節への転移あり), M0)

・術後合併症として、腹腔内のうようが発生し、敗血症性ショック(菌が全身にまわって炎症によって血圧が低下するような状態)となる。

・3ヶ月以内に徐々に回復したものの、術後の補助化学療法(抗がん剤)はできず

・6ヶ月以内のCT検査にて、後腹膜(背中側の腹膜)リンパ節のはれと、右腋窩(えきか)リンパ節のはれ(4X3センチ大)が発見される。

・生検(組織の一部を採取して顕微鏡検査)により、腋窩のリンパ節は膵臓がんの転移であることが判明。

・1ヶ月後、上腹部痛にてふたたび入院となり、急性膵炎の診断にて入院となる。

・3ヶ月後のCTにて腋窩リンパ節の大きさが20%以上、縮小していた。

・その後、1年間にわたり、腋窩リンパ節(下図の矢印)と後腹膜のリンパ節が縮小しつづけた

腋窩リンパ節CT

・手術から30ヶ月間(2年6ヶ月)まで病気は進行しなかったものの、その後リンパ節のはれが悪化し、6ヶ月後に死亡した。

経過のまとめ

リンパ節転移を伴う膵臓がん(膵頭部の腺がん)に対して膵頭十二指腸切除を行い、術後、全身性のリンパ節転移が出現したが抗がん剤治療を行わずにおよそ3年間生存した症例です。

その間、術後合併症としての腹腔内のうよう(+敗血症)と繰り返しの膵炎が発生していました。

考察

膵臓がんが転移した場合、治療をしなければ徐々に増大するのが一般的です。

この症例の場合、くりかえす炎症(術後合併症の敗血症、膵炎)が、免疫システムを活性化し、がんの縮小につながった可能性があるとしています。

いずれにしても、転移性の膵臓がんが自然に縮小したという報告は少なく、このような症例はきわめてまれであるとおもいます。

急性炎症と免疫、がんとの関係

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最近では、免疫とがんとの関係が注目されています。

免疫チェックポイント阻害剤(オプジーボ、キイトルーダなど)の登場により、がん細胞と戦う免疫システムが重要であることが再認識されました。

異物(自分とは異なるもの、侵入者など)を排除する免疫システムは、複雑なメカニズムで制御されています。

今回の症例のように、重症の感染症を経験した患者さんのがんが縮小したり、消失するといった報告があります。

これは、「急性の炎症によって免疫システムが活性化され、同時にがん細胞に対する攻撃力が高まる」というシナリオが考えられます。

このような症例をきっかけに、「がんと免疫」についてのさらなる研究が進むことを期待します。

  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

医師(産業医科大学 第1外科 講師)、医学博士。消化器外科医として診療のかたわら癌の基礎的な研究もしています。 標準治療だけでなく、代替医療や最新のがん情報についてエビデンスをまじえて紹介します。がん患者さんやご家族のかたに少しでもお役に立てれば幸いです。

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